チューリッヒ保険は2008 年12 月に携帯電話向けサイトで自動車保険契約を完結できるサービスを開始した。場所や時間を選ばずに手続きができる手軽さが受け、携帯電話からの新規契約や契約継続の申し込みは順調に増えている。同社では自動車保険契約だけでなく、事故や車両故障が発生した際にGPS対応携帯電話から緊急通報を受け付けるサービスを2007年から提供。携帯電話を固定電話やパソコンに次ぐ新チャネルとして確立した一連の取り組みが評価され、準グランプリを受賞した。

 「お客様にとって身近なツールである携帯電話を活用して、できる限りのサービスを提供する」。電話やインターネットによる保険商品の直販で知られるチューリッヒ保険(以下、チューリッヒ)は、新たな販売チャネルとして、携帯電話向けのサービス拡充を進めている。同社は2008年12月から、携帯電話向けサイト上で自動車保険契約の事務手続きを完結できる「モバイルHelp Point」を開始した。これは1999年に開始したパソコン向けのインターネット通販と同様、損保業界ではチューリッヒが先陣を切った。

限定的だった携帯電話向けサービス

 チューリッヒはそれまでも携帯電話用のサイトを開設してサービスを提供してきた。しかし従来は、既存の保険契約の更新はできるものの、更新時に補償内容を変更して申し込むことができなかった。また、パソコンでは適用されるインターネット割引は携帯電話からの申し込みには適用されなかった。モバイルHelp Pointは、新規に契約を申し込めるだけではなく、契約更新時に補償内容を変更することも可能にした。さらにパソコンからの申し込みと同様の割引を携帯電話にも適用した。

 この結果、携帯電話サイト経由の新規契約申し込みが相次いだ上に、「1~3月期の契約更新件数が前年同期の約6倍になった」(エージェンシー事業本部代理店開発部の並木哲也統括部長)と、上々のすべり出しだ。

 モバイルHelp Pointの保険契約システムは、基本的にはパソコン向けのそれと機能は同じで、データベースも共用している(図1)。パソコン向けのインターネット契約をそのまま携帯電話で実現させるためだが、モバイル向けのアプリケーションを一から開発しなくても済むので、全体の開発コストを最小限に抑えられる。

図1●モバイル Help Point のシステム構成
図1●モバイル Help Point のシステム構成
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 チューリッヒは2007年度に、日本支社の新規ビジネスとしてモバイルHelp Pointの開発を決定。2008年5月に主要メンバー15人による開発プロジェクトが動き出した。プロジェクトのメンバーは、以前に携帯電話向けの公式サイトやモバイルアプリケーションを開発した経験があるメンバーを中心に選出した。社外からはソフト開発会社のアッズーリが加わった。

画面作成は試行錯誤の連続

 モバイルHelp Pointの開発期間は2008年12月までの約半年間。この間、携帯電話向けのユーザーインタフェース作成に最も多くの時間を費やした。「自動車保険契約は情報量が多く、携帯電話の小さな画面に合わせていかに利用しやすくするかに気を使った」と、エージェンシー事業本部代理店開発部の佐々木真理子次長は振り返る。

 自動車保険契約の事務手続きでは、補償内容を選ぶだけでなく個人情報、自動車の車種や安全装備、事故歴、車検証の情報を間違いなく入力しなければならない。申し込みの前段階には見積もりの手続きもある。また、申し込み時には契約約款を必ず確認してもらわなければならない。

 これまでのパソコン向け画面を忠実に携帯電話の画面で再現しようとすると画面数は増えるばかり。契約約款の場合は一覧表の項目数が多いために、画面を縦横にスクロールして見なければならない。「こんな画面のままではお客様には使いにくいだろう」「お客様にとって使いやすくするにはどうすればいいか」。こうした議論が、プロジェクトメンバーの間で繰り返された。

 チューリッヒは利便性を追求するために、(1)画面数を少なくする(2)文字入力の手間を極力減らす(3)見やすいデザインと構成にする─の3点に注力した。見積もりと申し込みのそれぞれの段階で、自動車情報や顧客情報の入力、確認といったプロセスを絞り込み、入力と確認が終わるごとに画面を遷移させる。見積もりと契約申し込みのプロセスの画面数を、事前案内を除いて計13枚に抑えた(図2)。

図2●モバイル Help Pointによる自動車保険契約の流れ
図2●モバイル Help Pointによる自動車保険契約の流れ
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写真1●携帯電話に表示された自動車保険の契約約款
写真1●携帯電話に表示された自動車保険の契約約款

 文字入力を極力減らすために氏名や電話番号などを除きラジオボタンやチェックボックスを多用した。見積もり段階で入力した情報を申し込み段階で流用できるようにして再入力の手間を省いた。デザイン面ではテキストベースのシンプルな構成にしつつも、読みやすくするために行ごとに色を変えてアクセントをつけた。また、契約約款の画面は、各章ごとにページを分割。目次に各章や別表のリンクを張り、必要な情報をすぐに見られるようにした(写真1)。

 動作検証はNTTドコモ、KDDI(au)、ソフトバンクの携帯電話約20機種を使って実施した。携帯電話はプロジェクトメンバーをはじめ社員が所持する機種をかき集めたという。12月のサービス開始後も、携帯電話事業者が最新機種を出すたびに必ず動作検証を行っている。