ICタグを活用した蔵書棚卸しの自動化、24時間の図書貸し出しサービス、無線LANを活用したホットスポットの提供―。稲城市立中央図書館には、図書館として「日本初」の試みがいくつも並ぶ。地域の「インフォメーションセンター」を目指した同館の取り組みは、利用者からも評価された。2008 年の『図書館年鑑』によると、人口6万~8万人の都市における「貸し出し冊数で全国1位」に輝いた。審査委員会では、利用者に対して平等な学びの機会を提供し支援するものとして評価された。

 「単に情報システムを導入するだけでなく、建物も含めてゼロから作り上げたので、業務やサービスの改革にまで踏み込めた」。東京都稲城市立中央図書館の業務を受託するいなぎ図書館サービスの日高昇治社長は、同図書館の取り組みをこう説明する。ITを活用することで、他に類を見ないサービスを実現しているのだ(図1)。

図1●稲城市立中央図書館のシステム
図1●稲城市立中央図書館のシステム
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蔵書の棚卸しを1日で完了

 2006年7月に開館した稲城市立中央図書館には、図書館として「日本初」の試みがいくつもある。その代表例が、本に取り付けたICタグを、本棚に設置したアンテナで読み取れるようにしたことだ。これによって、貸し出しや棚卸しの手間を大きく軽減できた。

 一般の図書館では、蔵書の棚卸しを実施する際には、書籍に張り付けたバーコードをハンディスキャナーで1冊ずつ読み取っていく。これに要する手間と時間は大きく、通常は1週間程度閉館しなければならない。稲城市立中央図書館でも、ICタグを活用していなければ蔵書の棚卸しに2~3日間を要するという。

写真1●ICタグを読み取るハンディスキャナー
写真1●ICタグを読み取るハンディスキャナー

 ICタグの導入後は、書棚にハンディスキャナー(写真1)をかざしていくだけで棚卸しができるようになった。さらに、図書が頻繁に出入りする場所を中心に、全体の約5分の1の書棚には、ICタグを読み取るアンテナが設置されている。アンテナがある書棚では、棚卸しが自動化されている。これらを活用することによって、現在では開架にある約14万冊の蔵書の棚卸しを1日で完了できるようになった。この結果、年間の開館日数が345日と全国でもトップレベルになった。

 蔵書の棚卸し以外にも、ICタグの導入によって、複数の図書を貸し出す際に同時処理が可能になったり、盗難防止装置との連携によって盗難を抑止できるといったメリットが生まれている。図書館での盗難は、蔵書の数%にも及ぶのが一般的だが、稲城市立中央図書館では1%未満になったという。

写真2●24時間貸し出しのためのロッカー
写真2●24時間貸し出しのためのロッカー

 もう一つの「日本初」は、24時間の貸し出しサービスを実現したことだ。インターネットや携帯電話で貸し出しを予約すると、スタッフが外のロッカー(写真2)に図書を納入。利用者にロッカーの番号と暗証番号を通知する。ビジネスパーソンなど、平日の開館時間に図書館を訪れることができない人でも図書を借りられるようになったのである。このほか、無線LANを活用した「図書館のホットスポット化」も日本初の取り組みだ。館内にある喫茶店は、インターネットカフェのようなものだ。

写真3●セキュリティを重視してシンクライアントを採用
写真3●セキュリティを重視してシンクライアントを採用

 導入した端末にも工夫を講じた。図書館では、個人情報を取り扱うため、セキュリティを重視してシンクライアントを導入している(写真3)。