図6●公平・中立さを欠く議事進行の典型例
図6●公平・中立さを欠く議事進行の典型例
ITエンジニアやコンサルタントが顧客のユーザー企業でファシリテータを務める場合,外部の人間ということでただでさえ不信感や警戒心を持たれがちだ。一度信用を失ったら回復は極めて難しいため,公正・中立な立場を努めてキープする必要がある。
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 会議には,いわゆる“声の大きい人”が存在する(注3)。積極的に発言したり,職位が上だったりして,全体の意見に大きな影響を与える人のことだ。プロジェクトの会議でも,そうしたメンバーを中心に議論が進みがちである。これを仕方のないことと片づけてはいけない。発言者が偏ると,発言の少ないメンバーは「議事進行が公正・中立でない」と考え,確実に参画意識が薄れていく(図6)。

 逆に,議論に参加して,「自分の意見が役に立った」,「結論に反映された」と実感すれば,参画意識は大きく高まる。メンバー全員を巻き込んで議論し結論を出すことは,極めて重要である。

 そこでファシリテータは,発言に偏りがないか常に注意し,発言の少ない人を指名して機会を与えるようにする。例えば,誰かから意見が出た場合,その意見に関係が深い人に,同意するか,あるいは反対意見はないか,といったことを確認するとよい。

 全員を議論に巻き込むために,気を付けるべきことがもう1つある。ファシリテータが自分自身の意見を言い過ぎないことだ。素晴らしい意見だとしても,「正解を知っている先生」という印象を持たれて,メンバーの自主性を損なうことにつながる。万が一間違っていようものなら,ファシリテータとしての信頼は失墜してしまう。

 実際,ベテランのファシリテータほど,相づちは打っても,自分の意見は述べないものだ。全体の意見を把握し,良い結論を出すための意見が足りないと判断したときにだけ自分の意見を言えば,重みも増すし,信頼も得られる。

 メンバーの意見に矛盾や疑念を感じたり,共感・賛同したりした場合でも,他のメンバーから自分と同じ意見を引き出すようにする。どうしても自分の意見を述べなければならない場合は,上からものを言っているように思われないことが重要だ。「参考意見として聞いていただきたいのですが,…」という具合に,1つの意見と受け取ってもらえるようにする。

水田 哲郎(みずた てつろう)
日立製作所 ビジネスソリューション事業部 ビジネスシステムコンサルティング部 部長 上席コンサルタント
1990年,日立製作所入社。製造業・流通業の顧客を中心に,業務改革を伴うシステム開発プロジェクトを担当し,コンサルタントとして活躍。日立社内の「コンサルティング力強化プロジェクト」でリーダーを務め,ファシリテーションを含むコンサルティングの標準技法を開発した