要件を記述する際は,自然言語の文章だけで表現するのではなく,モデリング手法を活用するとよい。それにより,「要件の網羅性を確認しやすくなる」「記述のあいまいさを抑えられる」「要件の論理性,整合性を維持できる」「ビジュアルで視覚的に理解しやすくなる」という効果が期待できる(図4)。

図4●要件定義にモデリング手法を用いる効果
図4●要件定義にモデリング手法を用いる効果

 ただし,形式化されたダイアグラムの情報だけでは詳細な要件を表現し切れないこともある。ダイアグラムと文章を併用し,相互に補完し合うようにするのが現実解だといえよう。適用に際しては,文章に慣れているユーザーや,初めてそのモデルに接するメンバーに対する配慮が求められる。戸惑うことなくモデルを取り入れられるよう,理解を助ける説明資料を準備し,説明会を開催するとよい。

ビジネス要件定義に使えるダイアグラム

 現在,システム構築で使用されるモデルは,いわゆるUML(Unified Modeling Language)で表現されたものが主流である。UMLはOMG (Object Management Group) が管理する汎用的なモデリング言語で,UML 2.0以降では13種類のダイアグラムが使用されている(図5)。

図5●UML2.0の13種類のダイアグラム(灰色で示したもの)
図5●UML2.0の13種類のダイアグラム(灰色で示したもの)
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 要件定義作業の中で,特に文章に頼りがちなビジネス要件定義にも,適用できるモデルがある。その例を表1に示したので,参考にしてほしい。例えば,ビジネス・コンテキストの記述にはコミュニケーション図が適する。ただし,ユースケース図やクラス図のアレンジによっても記述可能である。

表1●ビジネス要件の記述に適したダイアグラム例
アウトプット名称 該当UML2.0ダイアグラム
ビジネス・コンテキスト コミュニケーション図
ビジネス・プロセス アクティビティ図
クラス図
オブジェクト図
ビジネス・フロー アクティビティ図
ビジネス・ユースケース ユースケース図

 また,ビジネス・プロセスの定義には,アクティビティ図やクラス図,オブジェクト図が適する。なお,UMLのダイアグラムを拡張して適用することによって,より適切なモデルを得ようとする取り組みも試みられている。この分野で有名なモデリング手法の一つに,「Eriksson-Penkerによるビジネス拡張」があり,アクティビティ図やクラス図,オブジェクト図などを拡張して新たなプロセス図のダイアグラムを定義している(参考文献)。

村石 岳嗣(むらいし たけし)
日本IBM マネジャー エグゼクティブPM
1989年にキャリア採用で日本IBMに入社。複数のシステム構築プロジェクトでプロジェクト・マネージャを務める。PM学会代議員,PM学会リスクマネジメント研究会会員。著書(共著)に『プロジェクトマネジメント大全』(日経BP社)がある
水井 悦子(みずい えつこ)
日本IBM シニアPM
1996年にキャリア採用で日本IBMに入社。製造業や流通業の顧客を中心に,SIプロジェクト・マネージャとしてシステム企画,要件定義からデリバリーまでを担当。PM学会会員,PMI会員