「顧客満足度の最大化と継続的な関係強化を図るために,顧客情報の全社的共有を実現する」──。あるユーザー企業が掲げたCRM(Customer Relationship Management)システム構築プロジェクトの目的である。もっともらしい言葉が並んでいるが,一読してピンと来るだろうか。

 プロジェクトの目的は,いわばメンバーが一体となって目指すゴールである。これがあいまいだと,メンバーはどこに向かって何をすればよいのかが分からない。そんな状態では,プロジェクトで実施する会議に対してメンバーが参画意識を持てるはずがない。

 そこでプロジェクトの最初に実施するキックオフ・ミーティングにおいて,プロジェクトの目的を,その背景まで含めて明確に説明する必要がある。そのうえでメンバー各自の役割を具体的に示すことが不可欠だ。その方法を説明しよう。

課題と関連付けて目的示す

 先の例のように,漠然としていて,様々に解釈できる目的が設定されている場合は,ファシリテータが整理し直して,メンバーに提示する必要がある。それには,プロジェクトの発起人である経営層や上級管理職に会って話を聞くとよい(注1)。

 発起人は,プロジェクトの目的はもちろん,その背景にある問題についても深く考えているものだ。それらを聞き出して,メンバーによって解釈のズレが生じないように,分かりやすく図式化する。その際に重要なポイントは,単にプロジェクトの目的だけを示すのではなく,その背景にある現状の問題を挙げたうえで,解決策としてシステムの目的を提示することだ。

図3●プロジェクトの背景と目的を図解した資料の例
図3●プロジェクトの背景と目的を図解した資料の例
メンバーの参画意識を高めるには,まず1人ひとりにプロジェクトの背景や目的を十分に認識してもらう必要がある。そのためにファシリテータはキックオフ・ミーティングなどで,プロジェクトの背景や目的を図解した資料を作成・配布し,しっかりと口頭で説明すべきだ。
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 一例を図3に示した。この図は,あるCRMシステム構築プロジェクトの背景と目的を表したもの。図の上段で,背景にある問題をいくつか挙げている。単純に列挙するのではなく,個々の問題同士の因果関係が分かるようにしていることに注意してほしい。そのうえで,「企業全体として,顧客ごとに効果的で一貫性のあるアプローチを行えていない」という,解決すべき根本の問題を示している。

 この根本の問題を受けて,図の下段にプロジェクトの目的を明確に表している。目的を記述する際には,「そのプロジェクトでは,何のために,何をするのか。その結果として,どうなることを期待するのか」が明確に分かるようにすることが重要だ。この例では,「顧客ごとに効果的で一貫性のあるアプローチを行うために,顧客に関する情報を全社で共有する」としている。