企業がシステム構築プロジェクトに投資をする目的は,ビジネス目標を達成することにある。したがってビジネス要件を見ずに,システム要件ありきで開始したプロジェクトは,たとえ計画通りにシステムが完成したとしても,本来達成すべき目標を達成できないリスクが高い。

 従来は,人手の作業をシステム化することにより生産性や品質が向上し,ビジネス上のメリットが得られたので,システム要件を気にしているだけでもよかった。しかし,一通りのシステム化が進んだ現在では,単なるシステム導入ではビジネス上の大きなメリットを得られにくくなってきている。そのため,まずビジネス面の目的や目標をビジネス要件として明確化し,続いてそれをシステムの要件にブレーク・ダウンすることが重要になっている(図3)。

図3●ビジネス要件とシステム要件
図3●ビジネス要件とシステム要件
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 ビジネス要件定義では,主として次の作業を行う。(1)企業がそのビジネスを行う目的を明確にする。(2)ビジネスにより達成したい目標を設定する (例: 売上高や利益など)。(3)設定したビジネス目標を達成するための,プロセスやフローを定義する。

 こうした(1)~(3)の活動は,既存の組織の改編や事業分野の再編を含む,企業のリストラクチャリングに発展することもある。

 要件レビューでは,定義したビジネス要件のビジネス・プロセスなどからビジネス目標の達成が見込めるかを念頭に検証することが大切である。次のシステム要件定義へと進むにあたって,ビジネス要件定義の過程で浮かび上がってきたシステム化の方針を書き出しておこう。ビジネスの分析がある程度進んだ段階で,システム化スコープの切り出しの準備として,全体を見渡し,システムのかかわり方を検討することは重要だ。この段階でソリューションのビジョンを明確にし,システムのグランド・デザインのイメージを描くことができると,その後のシステム要件定義作業がふらつかずにすむ。

システム要件はビジネス要件と関連付ける

 システム要件を定義する際に重要なのは,ビジネス要件との関連を明確にすることだ。それにより,後でビジネス・プロセスなどに変更が生じた場合でも,影響を受けるシステム要件が特定可能になる。いわゆるトレーサビリティを確保できる。

 システム要件定義では,次のような作業を行う。(1)ビジネス目標を達成するために,ユーザーがシステムを使用して行う仕事を明確にする。(2)ユーザーの視点で,システムは何を行う必要があるかを定義する(例: 商品を発注する)。要件レビューでは,システム要件によってビジネス要件が満たされるかを検証する。

 なお,要件定義に続く設計のフェーズでは,システム要件を満たすために,システムが提供すべき機能,ユーザーや外部システムとの接点の仕様定義を行う。要件定義と設計の作業の違いは,ユーザーの視点かシステム構築者の視点かで区別すると分かりやすいだろう。システム要件定義の「何を行うか」に対して,「どうやって行うか」の決定が設計作業の目的となる。

村石 岳嗣(むらいし たけし)
日本IBM マネジャー エグゼクティブPM
1989年にキャリア採用で日本IBMに入社。複数のシステム構築プロジェクトでプロジェクト・マネージャを務める。PM学会代議員,PM学会リスクマネジメント研究会会員。著書(共著)に『プロジェクトマネジメント大全』(日経BP社)がある
水井 悦子(みずい えつこ)
日本IBM シニアPM
1996年にキャリア採用で日本IBMに入社。製造業や流通業の顧客を中心に,SIプロジェクト・マネージャとしてシステム企画,要件定義からデリバリーまでを担当。PM学会会員,PMI会員