IT Japan Award 2009の経済産業大臣賞(グランプリ)は、三菱東京UFJ 銀行の「システム本格統合(Day2)プロジェクト」が受賞した。Day2の目的は旧東京三菱銀行と旧UFJ 銀行のシステムの完全統合だ。投資額2500 億円、総工数11万人月、ピーク時に6000人の技術者が参画した巨大プロジェクトを、大きなトラブルなく納期どおりに完遂したことが、グランプリ受賞につながった。審査委員会では、徹底したリスクの洗い出し、進捗管理といったプロジェクトマネジメントの手腕が高く評価された。

 三菱東京UFJ銀行は、2006年1月に旧東京三菱銀行と旧UFJ銀行が合併した後、しばらく旧2行のシステムを並存させた。二つのシステムを一つにするのが「Day2」だ(図1)。Day2の特徴はその規模にある。プロジェクトに参加した技術者は、銀行とシステム関連会社の要員、IT企業の社員を含めピーク時には6000人に達する。投資額は2500億円、開発期間は3年弱、総工数は11万人月に及んだ。

図1●2008年末に完了した三菱東京UFJ銀行のシステム完全統合<br>合併時の「Day1」で旧2行の勘定系を相互接続し、「Day2」で勘定系を一本化した
図1●2008年末に完了した三菱東京UFJ銀行のシステム完全統合
合併時の「Day1」で旧2行の勘定系を相互接続し、「Day2」で勘定系を一本化した
[画像のクリックで拡大表示]

 世界最大とも言われたプロジェクトを大きなトラブルなく予算・納期どおりに完了できたポイントは、プロジェクトを始める前の綿密な計画・準備にあった。例えば、プロジェクトの途中で直面する可能性のあるリスクを徹底的に洗い出して対策を考えてから臨んだ。最終局面ではテストに8カ月を費やす計画を立てて、切り替えやデータ移行のリハーサルは26回を予定した(図2)。4000万件の口座データの移行と3万台の営業店端末/ATMの切り替えは複数回に分けてリスクと負荷をできるだけ分散した。

図2●開発・切り替えスケジュール<br>切り替えは2年がかりで段階的に進め、万が一トラブルが起きたときの影響範囲を小さくし、原因を早期に究明できるようにした
図2●開発・切り替えスケジュール
切り替えは2年がかりで段階的に進め、万が一トラブルが起きたときの影響範囲を小さくし、原因を早期に究明できるようにした
[画像のクリックで拡大表示]

コントロールタワーをまず設置

 6000人の陣頭指揮を執った根本武彦常務取締役コーポレートサービス長は、まずプロジェクトマネジメント・オフィス(PMO)や品質・リスク管理、要員確保、対話支援、コスト管理といった役割を担うチームを設け、エース級の要員を集めた。根本常務の右腕として、ヒト・モノ・カネを管理する「コントロールタワー」の役割を果たすDay2の管理・推進組織である。「6000人の力を最大限に発揮するには、6000人を束ねる管理・推進組織が不可欠」(根本常務)と考えた。

 管理・推進組織を発足させると、すぐさまリスクの洗い出しに取り掛かった(図3)。リスクは「システム自体のリスク」と「プロジェクト遂行上のリスク」の2種類に分類して200のサブシステムごとに洗い出した。システム自体のリスクは、例えば決済関連のシステムか、取引量が多いか、顧客や外部機関との接点があるか、などだ。プロジェクト遂行上のリスクは、技術者を確保できるか、社外システムとの接続試験の予定が組めるか、などが該当する。2種類とも単に列挙するのではなく、数値に換算して「影響の大きさを定量的につかむことを目指した」(根本常務)。定量化したリスクはプロジェクトの進捗に応じて解決状況を確認した。

図3●システムやプロジェクトの特性に基づくリスク分析の手順<br>左下はサブシステムとリスクの関連を示す「影響分析マトリクス」の例。右下は移行判定基準と達成基準
図3●システムやプロジェクトの特性に基づくリスク分析の手順
左下はサブシステムとリスクの関連を示す「影響分析マトリクス」の例。右下は移行判定基準と達成基準
[画像のクリックで拡大表示]

 リスク対策で肝心なのは対策の実行である。Day2では事前にリスクの解決手段を考え、具体的な実行計画を作成した。そこから「移行判定基準」などDay2全体と各工程の完了基準を設定し、すべてのリスクを解決したかどうかを確認できるようにした。

 特に、自らの努力だけでは解決できない外部に依存するリスクに注意した。最たる例が開発会社の技術者の確保だ。技術者を確保できるかどうかは、開発会社の受注状況に依存する。10人や20人ならなんとかなるかもしれないが、Day2では6000人のうち開発会社の要員が4400人を占める。「早くから要員確保をリスクととらえ先手を打った」(根本常務)。東京近郊でメドがつかなければ地方都市にも出向き、いつごろどのようなスキルを持った技術者が何人ぐらい必要といった具体的な要望をあらかじめ開発会社に伝えた。Day2に携わった会社は最終的に100社を超え、開発拠点は国内外22カ所に達した。