前回は,計画プロセス群のプロセス(図1)のうち,「プロジェクト・スコープ・マネジメント」知識エリアと「プロジェクト・タイム・マネジメント」知識エリアの各プロセスについて説明しました。今回と次回は,計画プロセス群の残りの知識エリアのプロセスについて,説明しましょう。

図1●PMBOKで定義された44個のプロセス
[画像のクリックで拡大表示]

初めての仕事だからこそ,リスク・マネジメントが重要

 残りの知識エリアの中で私が個人的に最も強調したいのは,「プロジェクト・リスク・マネジメント」知識エリアです。PMBOKの定義では,プロジェクトとは,「独自のプロダクト,サービス,所産を創造するために実施される有期性の業務」です(第1回参照)。ここで,「独自の」という部分に注目して下さい。

 第1回で述べたように,「独自の」というのは,

    初めての仕事
    ルーチンワークでない仕事
    未知の問題・課題が発生しそうな仕事

という意味です。だからこそ,リスクに対する備え,つまりリスク・マネジメントが必要になるのです。そこで,まずは「プロジェクト・リスク・マネジメント」知識エリアに含まれるプロセスから説明します。

 なお,PMBOKによる「リスク」の定義は「もし,それが起れば,プロジェクトの目標にプラスやマイナスの影響を与える不確実な事象」です。この定義のポイントは,以下の2点です。

 一つは,PMBOKではプラスの影響もリスクと呼ぶという点です。例えば,それが起これば「スケジュールが早く終わるかもしれない」事象とか「コストが安くなるかもしれない」事象は,プラスのリスクです。ちょっと独特の定義ですね。まあ,そんなことはまずないので,マイナスのリスクだけに着目しておけば,実務上は問題ないですが。

 二つめは「不確実な」という表現です。リスクは,あくまでも確率的に予測は可能だが発生するとは限らない事象なのです。逆に,確実にコストオーバーを引き起こす事象は,リスクではなく「問題・課題」ですから,必ずいつかどこかで解決しなければなりません。従って,この問題・課題を解決する活動は,プロジェクト・スコープ(プロジェクトの作業)に含まれていなければなりません。これに対して,リスク・マネジメントでは,あくまでも“不確実な”事象を扱います。

■リスク・マネジメント計画プロセス

 このプロセスでは,プロジェクトでどのようにリスク・マネジメントを行うかを決めて,その結果を「リスク・マネジメント計画書」にまとめます。PMBOKが推奨しているリスク・マネジメント計画の内容は以下のようなものです。

  • 方法論~リスク・マネジメントのための取り組み方,ツール,データ源など
  • 役割と責任~リスクをマネージする時の役割・責任と担当者の決定
  • 予算化~リスク・マネジメントに必要な資源を決めて,予算化
  • タイミング~リスク・マネジメントを実行する時期
  • リスク区分
  • リスクの発生確率と影響度の定義
  • 発生確率・影響度マトリクス
  • リスク登録簿の書式

 リスク区分,リスクの発生確率と影響度の定義,発生確率・影響度マトリクス,リスク登録簿という新しい言葉が出てきましたが,これらについては後述します。

 この記事の最後に,リスク・マネジメント計画書のサンプルを掲載しましたので,ぜひ参考にしてください。