ベネフィット・ワン 小山 茂和 常務取締役管理部門担当兼経営管理部長

 福利厚生代行サービス大手のベネフィット・ワンのCIO(最高情報責任者)である小山茂和常務取締役は、銀行の経営企画部門に長く勤めていた。前職でも経営的な視点からIT(情報技術)について検討する機会は多かったが、銀行業務の基盤として、コストがかかっても大規模かつ堅牢に構築するものという程度の認識だった。

 しかし「ITは利用する側の工夫次第では戦略的事業を生み出せる存在なのだ」(小山常務)と気づくきっかけが2000年代にあった。そのきっかけとは、新生銀行が自行のATM(現金自動預け払い機)を他行の顧客に無料で開放し、他行から手数料を徴収するビジネスモデルを掲げたことだ。「ATMは支店を開設できない地域の顧客に赤字覚悟で提供するサービスの一種」としてとらえていた小山常務にとって大きなインパクトがあった。以来、小山常務はIT関連の案件では、戦略的に活用法がないかを常に意識するようになったという。

 この考え方を、2004年に管理部門担当役員として移ったベネフィット・ワンでも生かした。2007年からはCIOを兼務するようになり、当時進行中だった基幹システムの再構築プロジェクトを率いた。実はこのプロジェクトは、小山常務が入社して間もない2004年12月から構想されていたにもかかわらず、進ちょくが停滞していた。経営幹部の間でも懸案事項になっていたほどの重要な仕事だった。

 小山常務はまずITベンダーやIT部門の担当者にヒアリングして回り、プロジェクトの現状を整理した。前者には遅れの原因を尋ね、後者には「実現するには何が必要か」「今のプロジェクトをやり遂げたいと思っているか」などを尋ねた。その結果、ITベンダーからは「システムの要件定義が固まる前に新しい事態が起こって、変更を余儀なくされる」「業務部門とのコミュニケーションが十分ではない」などの指摘を受けた。IT部門の担当者からは「これまで準備をしてきたのだから必ずやり遂げる」との返答が得られた。現場のモチベーションを確認できた小山常務は自信を持ちつつ、ベンダーの指摘を参考に対処を始めた。

 突き止めたプロジェクト遅延の大きな原因は段取りにあった。当時の同社は基幹システムの刷新と同時に、利用部門の業務プロセスの見直しにも着手していた。福利厚生代行事業の急拡大に伴って業務量が膨れ上がり、業務プロセスの見直しが急務になっていたからだった。

 だが、このために業務部門から「業務プロセスが変わった」などと連絡が入り、基幹システム開発の仕様変更を余儀なくされるようなケースがあった。しかもあらゆる業務部門に日常業務をどのようなプロセスで回しているのかをヒアリングする作業も難航していた。

 そこで小山常務は、すぐに大きな見直し効果を得られそうな業務プロセスの範囲と、そうでない範囲とを整理した。その結果、見直す範囲は福利厚生サービスの顧客対応の効率化などに絞った。見直した業務プロセスをスムーズに新しい基幹システムに実装させるために、2008年3月から担当業務部門とIT部門、ITベンダーを集めて徹底的に議論を重ねた。業務部門とIT部門が一体となって取り組んだことが功を奏し、基幹システム刷新プロジェクトは急速に進み始めた。

 そして2008年9月、難産だった基幹システムの刷新がついに完了した。小山常務は「新しい基幹システムの稼働当初は、動作トラブルが発生するだろうと覚悟していたが、不思議なくらい順調に稼働してくれた」と胸をなで下ろした。

 今回の基幹システムの刷新では、ITコストの投資対効果も追求していた。システムの堅牢性は担保しつつも、機器構成を見直すことなどによって、より安価に開発できないのかどうかをIT部門の部下に繰り返し確認した。これにより、当初の想定よりも導入コストを3割以上節約できたという。

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