経営者にとって、情報システムは頭痛の種になりがちだ。業務に必須だが投資に見合った効果が出るとは限らない。ほかの設備投資に比べて専門的で難解でもある。

 野村総合研究所で約20年間勤務した後に、人材派遣大手スタッフサービスのCIO(最高情報責任者)を務め急成長を支えた著者が、ベンダーとユーザー両方の視点から、“システム屋”の思考回路と、上手な付き合い方を説く。

 前回(第17回)では、IT(情報技術)ベンダー・システムインテグレーターの経営者が「コンサルティング機能」強化に走る理由について解説しました。最も手っ取り早い強化方法は、M&A(合併と買収)です。

 私自身が以前在籍していた会社は、まさにコンサルティング会社とシステム会社が合併してできた会社でした。大手ユーザー企業の子会社として生まれ育った両社を、親会社が合併させたのでした。私自身はシステム会社側の社員で、入社からちょうど10年が過ぎたころです。

 この時つくづく感じましたが、学生のころから「コンサルタントになりたい」と思う人物と「“システム屋”になりたい」と思う人物では、「人種が違う」と言いたくなるほどのギャップがありました。そして合併後には、「“システム屋”をやってからコンサルタントになりたい」あるいは「“システム屋”はもう十分だからコンサルタントになりたい」といった第3の人種が出てきました。この人種はその後、他社あるいは日本の多くのシステム会社でも増えたように思います。

合併しても相乗効果が出ない

 こうした私の実体験を踏まえると、コンサルティング会社とシステム会社が合併しても、あるいはシステム会社がコンサルティング会社を吸収合併する動きが広がっても、日本のシステム業界の改革は望めないと感じています。国際競争力を持つ方向に動き出したとも思えません。

 この流れは個々の会社に上流シフト効果、単価改善効果をもたらすものの、効果はほぼそれだけにとどまります。前回で触れたように、経営統合後のコンサルタントにとって、やることが決まった後のシステム開発は同じ会社の誰かが担当しても、社外の協力会社が担当しても大差ありません。

 同じ会社だからといって相乗効果を出そうという動機がそもそもありません。「顧客志向」「顧客第一主義」のもとで抱えている固定客のさらなる固定化と、「システムインテグレーター」と自称する元受けシフトあるいは上流シフト、さらに「ソリューション」と呼ぶ海外製品の紹介促進に効果があるものの、それ以上のものではありません。

 日本が優位に立つのは、多くの人々が知恵を出し合い、それを1つの形に結晶させる時だというのが私の考えです。特定のコンサルタントと特定のシステム技術者が特定の顧客企業のシステム構築案件に対して知恵を出し合う程度では、国内での差異化はできても、グローバルでの競争となれば脇役にすぎないのかもしれません。

 情報システムの世界では、個人も会社も「コンサルタントになりたい」あるいは「コンサルティング機能を強化して単価を上げたい」という、夢のようで、あいまいな、目標とは呼べない幻想を抱くよりも、日本中で通用する情報システムを作ることを目標にするべきだと思います。もし日本中で通用すれば、日本市場で鍛えられることで世界に通用するものになるかもしれません。そしてそうなった時、広くて深い経験を積んだ“システム屋”は自然とコンサルティングをこなしているでしょうし、つまらない施策を講じなくても、その会社のコンサルティング機能は強化されているはずです。

佐藤 治夫(さとう はるお)氏
老博堂コンサルティング 代表
1956年東京都武蔵野市生まれ。79年東京工業大学理学部数学科卒業、同年野村コンピュータシステム(現野村総合研究所)入社。流通・金融などのシステム開発プロジェクトに携わる。2001年独立し、フリーランスで活動。2003年スタッフサービス・ホールディングス取締役に就任、CIO(最高情報責任者)を務める。2008年6月に再び独立し、複数のユーザー企業・システム企業の顧問を務める。趣味はサッカーで、休日はコーチとして少年チームを指導する。