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日経コンピュータ

第67回 APaaSはクラウドのキラーアプリケーションとなるか?

2009/07/08
渡辺 享靖=ITpro
出典:日経コンピュータ 2009年6月24日号  131ページより
(記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります)

by Gartner
イェフィム・V・ナティス VP兼最上級アナリスト
エリック・ニップ シニアリサーチアナリスト
飯島 公彦 リサーチVP

 米セールスフォース・ドットコムの「Force.com」に代表される「APaaS(アプリケーション・プラットフォーム・アズ・ア・サービス)」は、アプリケーション開発が容易であり、そのアプリケーション実行環境は無制限に拡張可能であると同時に信頼性も高い。しかも中小企業に手が届く価格で利用可能だ。にわかには信じがたい話ではあるが、APaaSはクラウドコンピューティングにおいて、最も重要な役割を果たす。

 クラウドコンピューティングとは、複数のユーザーが巨大なコンピュータ資源を共有することだ。ユーザーによる資源の共有を実現するために、クラウド事業者はマルチテナント型の資源共有技術の開発に取り組んでいる。

 APaaSはマルチテナント型の資源共有技術を利用して、各ユーザー(テナント)がカスタムアプリケーションをクラウド上で実行できるようにしたものだ。APaaSでは、各アプリケーションのビジネスロジックはメタデータとして管理される。各アプリケーションはプラットフォームがメタデータを逐次解釈するという形式で実行される。事前にコンパイルされたバイナリ形式として実行されるのではない。APaaSのアプリケーション開発やデザイン、メンテナンス、拡張が容易であるのは、このような「メタデータ駆動形式」を採用しているためだ。

 何千ものテナントを集めるクラウド事業者は、巨大なデータセンターを構え、アプリケーションのスケールアウトを実現する最新鋭のクラウド技術を開発している。実際に米グーグルや米マイクロソフト、米アマゾン・ドット・コムといったクラウド事業者の投資額は、数十億ドル規模にも及ぶ。

 もはや独立系ソフトウエア企業が単独でクラウドプラットフォームを構築するのは不可能である。その一方で大規模クラウド事業者が提供するAPaaSは、何千ものテナントが運用コストを負担しているので、各テナントがわずかな費用で利用可能である。よって、あらゆる規模のソフトウエア企業にとって、APaaS上に自社のSaaSを構築することが、拡張性の高いSaaSを適切な価格で顧客に提供する上での、唯一の現実的な選択肢となる。またユーザー企業にとっても、クラウド事業者が提供するAPaaSやAPaaS上のSaaSを利用することが、最先端技術であるクラウドプラットフォームを利用できる唯一の手段となる。

 もっとも、現時点でのAPaaSはまだ完全な状態ではない。例えば、APaaS上でのアプリケーション開発手法やモデルは、まだ標準化されていない。各APaaSによるベンダーロックインが発生しており、多くの企業がAPaaSに移行する上での障壁となっている。

 誰もが利用できる「パブリッククラウド」に対するセキュリティ上の懸念も消えていない。現時点でクラウドに移行しているのは、CRM(顧客関係管理)のような厳重なセキュリティが求められていないデータを扱うアプリケーションだけである。金融機関の基幹システムのような現金の移動が発生するアプリケーションは、依然としてクラウドに移行していない。

 大手がAPaaSに積極的ではないことも懸念材料だ。米マイクロソフトなどが現時点で対応しているのは、「Amazon EC2」のような仮想マシン単位でリソースを共有する、マルチテナント型ではないプラットフォームだけだ。大手ベンダーがマルチテナント型のAPaaSに対応するのは2012年ごろまでずれ込むだろう。

 現時点でのAPaaSのリーダーはForce.comである。「LongJump」や「Rollbase」「Archer」「Vertical Solutions」といった競合は規模が小さく、必要な機能をすべて提供できてはいない。既存アプリケーションのAPaaSへの移行を容易にするには、大手ベンダーのAPaaS参入が不可欠だ。

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