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記者のつぶやき

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続・なぜなら、給料が安いから

30年続いた暗黙のルール

 社員は「組合が認めない組織、イコール会社が認めない組織のチラシをもらってはいけない、話を聞いてもいけない」と躾けられている。けれど、会社が経営方針説明会などを開いて、その場で発言を許可すれば「認めない組織」の人たちがこれぞ好機と厳しい質問を浴びせることだろう。発言があれば、答えないわけにはいかない。しかも、その一部始終を社員たちも見聞きすることになる。それはマズいということで、説明会などでは一切の質疑応答をしないようにした。それが習慣として根付いてしまったのだと、旧社員の方から聞いた。

 つまり、労使紛争を口実として「正規ルートでアナウンスされることしか聞いてはならない」という基本則に「それに対して何かを言ってもいけない」という付帯条項が加えられたわけである。そのような暗黙のルールは、私がかの会社に籍をおいていた80年代後半には、確かに存在していたように思う。多くの証言によれば、それから20年以上も経過した今日にあっても、それは温存され続けたようだ。そこまで長い年月をかけて身に染み込ませた習慣は、一朝一夕で改められるものではないだろう。

 そうであるとすれば、それはかなり致命的な問題なのかもしれない。

 またもや過去記事のことで恐縮だが、「本当のことを言う」の中で、組織がダメになるのは「本当のことを言う」という1点が守られていないからであるというルーシーさんの説を紹介させていただいた。

 問題を起すのは従業員だけではない。むしろ深刻なのは、リーダーが犯す誤りである。リーダーも人間だから、しばしばそれは起こる。けれど、健全な組織でそれが破綻にまで至らないのは、リーダーの周囲にフォロワーたちがいるからだ。会社でいえば、経営陣と従業員、上司と部下である。組織の鉄則は、従業員たち部下たちが正直にものを言う、つまりリーダーが間違ったときは「間違ってますよ」と本当のことが言えることなのだとルーシーはいう。

 「ものが言えない」というのは、「本当のことが言えているか」を問う以前の問題である。昔なら「目上の方には口答えをしない」ということが当たり前のマナーだったかもしれない。現在でも軍隊はそうだと、防衛大学校卒の知人に聞いたことがある。「命令に『なぜ』はないんだよね。そもそも、命令の内容や理由を説明することすらタブーになっている。なぜなら、説明をしてしまうと下の兵隊たちが各自にその妥当性とかを考え始めてしまうから。その結果、統率が崩れることを怖れるんだよ」。

 かつては会社も軍隊と同じでよかったのだとルーシーはいう。考えるのは経営陣など一部の人たちで、部下はただそれを信じ馬車馬のように働けばよかったのだと。けれど、世の中の変化が激しくなり、同時にグローバル化が進んだ。その結果として、ビルの最上階に陣取った一握りの人たちがそのすべてを把握し対処するのは不可能になった。「今は、全員が情報を共有し、考え、判断しなければならない。それができないと会社は世の中の流れに取り残されてしまう。たから、リーダーシップではなくフォロワーシップ。それを発揮させるために工夫をこらし、業績を上げている会社がいっぱいある」のだという。

かつての日本ではできたこと

 「例えば」と教えてくれたのが米ゴア社(W.L.ゴア&アソシエーツ)である(関連記事)。防水透湿性素材「ゴアテックス」など先端技術を駆使した製品で知られる同社は、何と社長以外の社員には上司、部下といった上下関係が一切ないのだとか。もちろん、チームで仕事を進める場合にはリーダーが必要になる。そんなプロジェクトが立ち上がると、みんなでリーダーを決める。けれどもそのリーダーはあくまでそのプロジェクトでリーダーという役割を果たす人なのであって、それが永続的な資格や役職になるわけではないらしい。

 このような、フラットな組織で全員が一丸となって目標に挑むやり方は、そのルーツをたどればかつての日本をモデルにしたものだともいわれている。80年代、米国の産業界は停滞を抜け出すべく、当時絶好調だった日本企業の研究にいそしんだ。そこから多くの法則や手法を導き出し、多くの企業がそれを参考にしたのだが、そんな一連の研究成果のなかから出てきた考え方の一つに、「リニアモデルと連鎖モデル」というものがある。

 リニアモデルは欧米で広く採用されていたもので、研究→開発→設計→製造→販売という直線的な流れを想定して組織を運営、新商品を生みだしていく。このため、老舗メーカーの多くがその起点となる中央研究所の強化を重要課題としてきた。もう一方の連鎖モデルは、「市場の発見」を起点におき、研究開発の担当部署と設計、マーケティング、営業などの部署が連携しながらニーズに対応する商品を生み出していくというモデルである。

 90年代初頭、日経エレクトロニクス誌の記者として欧州メーカーの研究開発トップを取材した際、こんなことを言われたことがある。「例えば日本メーカーは優秀なプリンターを開発して世界市場を席巻している。うらやましいことだ。残念だけど、欧州ではもうそれができなくなっている。研究者たちがきれいなラボで、きれいな仕事しかしなくなってしまったからなんだ。食堂だって、管理職やドクターたちと現場作業員では別だしね。でも日本はちがう。ドクターをとって入社した人でも作業服を着て、現場の作業員と一緒に働く。だから優秀な製品が開発できる。でもいずれ、日本でもそれができなくなって、優れた新製品が生み出せなくなる日がきっとくるよ。そのときどうするか。そこが問題だね」。

(仲森 智博=電子・機械局編集委員)  [2009/07/02]

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