松本直人/ネットワークバリューコンポネンツ ニュービジネスチーム

 今回は本連載のまとめとして,キャリア・グレードNATを介するインターネット接続サービスが始まったとき,ユーザーはどのような点を考慮してサービスを選択するべきかを整理してみます。

【ポイント1】日常的に使うアプリケーションを確認する

 日本では,インターネットの用途の大半はおそらくWeb閲覧とメール送受信でしょう。この二つだけを利用するならば,キャリア・グレードNATの実施前と実施後で違いは出ません。

 現状,家庭で普及しているブロードバンド・ルーターでは常にNATが動いています。NATの特性上,NATが何段になってもインターネット上にあるサーバーからは一つのNATにしか見えません。用途がWebとメールなら,従来のインターネット利用環境と変わりません。

【ポイント2】何が影響を受けるのかを確認する

 昔からNATを得意としないアプリケーションは多々あります。昨今はその種類も減少してきていますが,ゼロではありません。例えばIP電話やオンライン・ゲーム,インスタント・メッセンジャー,P2P(peer to peer)ソフトウエア,UPnP(universal plug and play)対応ソフトウエアの一部に,NATを得意としないものがあります。これらのアプリケーションは,現状のNATでも使えるかどうかの確認が注意です。キャリア・グレードNATもNATの一形態ですので,同じことが言えます。

 家庭には,ネットワークにつながる家電やゲーム機もあります。これらのキャリア・グレードNATとの相性の良し悪しは未知数です。よく使われるものについては,もしかしたらキャリア・グレードNATのサービス提供が始まるころ(あるいは始まったあと)にプロバイダやメーカーから情報提供されることがあるかもしれません。その際は見逃さないようにしましょう。

【ポイント3】キャリア・グレードNATの長所と短所を確認する

 これは従来のNATにもいえることですが,キャリア・グレードNAT環境でインターネットに接続したパソコンは,NATを介さず直接インターネットにつないだパソコンに比べて外部からのウィルス感染に強いと推測されます。NATを介すと,パソコンのぜい弱性が見つかっているポート番号に攻撃をしかけても,そのままパソコンに届かなくなるからです。修正パッチもパーソナル・ファイアウォールも搭載しない旧来のWindowsパソコンをインターネットに直接つなぐと,数分でワームの攻撃を受け感染するという話があります。NATの有無でセキュリティは違います。

 一方欠点を見ていくと,外からアクセスする用途は使いにくくなるといえます。例えば,ダイナミックDNSサービスに加入して家庭でWebサーバーを運用しているような人はマイナスの影響を受けるでしょう。グローバル・アドレスは複数ユーザーで共有しますので,Webであればグローバル・アドレスの80番が自分に割り当てられない限りダイナミックDNSはうまく機能しなくなります。このように,グローバル・アドレスを自分だけで使う前提のアプリケーションやサービスは,使えないか使いにくくなる可能性が高いでしょう。

【ポイント4】今後のインターネットの動向をチェックする

 次世代インターネットのプロトコルとしてIPv6が策定され,その大規模な商用サービスに向けて準備が進んでいます。過去10年以上IPv6の普及促進を見てきた筆者の感想として,一つ注目し続けていることがあります。それは,「アプリケーションのIPv6対応状況はどうか?」ということです。

 キャリア・グレードNATの場合も同じことがいえますが,お使いのアプリケーションやサービスが新しく登場するしくみにどの程度対応できているかどうかは,何事においてもポイントになります。ユーザーの視点としては,常にこの「何が動くか?」を注意深く見守り,適宜利用していくことが良いでしょう。

 インターネット上のサービスやシステムは,仮想化技術やクラウド・サービスなどの新潮流・新技術に後押しされながら日々進化しています。また,Ajax(asynchronous JavaScript+XML)を使うWebサービスに代表される,ブラウザ上で完結するサービスへの期待も高まっています。つぎの10年で,インターネットの利用形態が大きく変わり,それに伴ってNATの使われ方も現在と違っているかもしれません。

 本連載は,今回が最終回となります。お付き合いいただきました読者の皆様に,お礼を申し上げます。ありがとうございました。


松本直人 (まつもと なおと)
ネットワークバリューコンポネンツ ニュービジネスチーム
1996年より特別第二種通信事業者のエンジニアとしてインターネット網整備に従事。その後システム・コンサルタント,ビジネス・コンサルタントを経て,2008年より株式会社ネットワークバリューコンポネンツにて新規ビジネス開発を担当。技術開発からビジネス構築までを一気通貫で担当する。システム延命技術の研究開発に取り組む「仮想化インフラ・オペレータズグループ(VIOPS)」発起人のひとりでもある。