安価な小型パソコンとして人気のネットブックに,無線通信サービスをバンドルして販売する携帯電話事業者が登場している。一定期間の契約を前提に補助金を出し,それを端末の値引きに反映させることで安価に販売する仕組みだ。海外でも既に多くの事業者が展開している。米AT&Tなどの最新動向を解説する。

(日経コミュニケーション編集部)

武田 まゆみ/情報通信総合研究所 研究員

 日本では,イー・モバイルが「100円PC」を販売して大きな話題となった無線通信サービスとネットブックのバンドル販売。2009年夏には米デルがMVNO(仮想移動体事業者)として,ネット接続と通信料の前払い機能を搭載した専用パソコンを日本市場に投入することを発表しており,日本では当面,MVNOのビジネスモデルの一形態として発展しそうだ。

 一方,海外では携帯大手によるビジネス展開が目立つ。既に英国ではボーダフォン,オレンジ,T-モバイルが,ドイツではT-モバイル,ボーダフォンなどが販売を始めており,米国でもAT&Tとベライゾン・ワイヤレスの大手2社が本格参入を表明している。

iPhoneの成功をネットブックでも

 iPhone 3Gの販売でAT&Tは,米アップルに数百ドルの端末補助金を支払うことで,199ドル(8GBモデル)または299ドル(16GBモデル)という安価な価格を設定した。その代わりに,加入者に対して2年間の契約を義務付けている。加入者は月額30ドルのデータ通信プランに加え,月額40~100ドルの通話プランに加入することになる。

 端末補助金はAT&Tにとって大きなコスト増だが,それを上回る通信費を長期間にわたり徴収できるのが魅力である。同社によれば,消費者は高額な通信プランに加入しても端末の初期費用が安価であることに魅力を感じるという。この仕組みにより同社は2008年第3四半期に240万台,第4四半期に190万台のiPhoneを販売した。

写真1●台湾エイサーの「Aspire One」(画面サイズが8.9インチのモデル)
写真1●台湾エイサーの「Aspire One」(画面サイズが8.9インチのモデル)

 そこでAT&Tは,携帯電話端末だけでなく,ネットブックをはじめとした他のハードウエアにも同様のビジネスモデルを展開し,加入者拡大を計画している。2008年12月に台湾エイサー製「Aspire One」(写真1)を,2009年1月には米デル製「Inspiron Mini 9」を,端末補助金によって99.99ドル(いずれも通常販売価格は500ドル)で販売するキャンペーンを期間限定で実施した。同端末には,モバイル・インターネット接続対応チップが内蔵されており,利用者は月額60ドル,利用上限5Gバイトのデータ通信プランを2年契約する必要がある。

 これらは大手家電量販店の「Radio Shack」やデルのオンラインストアで販売されていたが,2009年4月からはAT&Tの一部販売店でも取り扱いを始めた。現在,アトランタとフィラデルフィアでキャンペーンを実施中(表1)。バンドルするサービスも,月額40ドル,上限200Mバイトのプランが追加された。アトランタの販売店では,固定DSLを含めて月額60ドル以上のプランをバンドルするとAspire Oneが49.99ドルで購入できる。

表1●AT&Tが実施しているネットブックとモバイル・データ通信のバンドル販売
表1●AT&Tが実施しているネットブックとモバイル・データ通信のバンドル販売
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 またラインアップも,デル製「Inspiron Mini 12」,韓国LG電子製「X110」が追加されたほか,米レノボ製ノートPC「X200」も提供されている。2009年末にも全国展開を目指しており,将来は,デジタルカメラや携帯ゲーム機などにも対象を広げていく計画だという。

 他方,米最大手のベライゾン・ワイヤレスはAT&Tの動きを受け,「ベライゾン・ワイヤレス・コミュニケーションズ・ストア」でのバンドル販売を開始した。第1弾として5月17日から,2年契約を条件に米HP製「Mini 1151 NR」を199.99ドルで販売。バンドルするサービス・プランは,利用上限250Mバイトで月額39.99ドルと,利用上限5Gバイトで月額59.99ドルの2種類である。