5年前の失敗もあって、顧客の信用はいま一つ。不利な状況の中、営業担当者が奮闘。提案内容では一定の評価を得た。だが、顧客の根強い不信感からなかなか成約できない。

 「過去の失敗のせいで、なかなか開発案件を受注できなかった。ようやく声を掛けてもらい、成約できたことは本当にうれしい」。リクルートエージェントの担当営業であるアイアイジェイテクノロジー(IIJ-Tech)営業第一部営業第二課アカウントマネージャーの並木隆は、喜びを隠さない。

 過去の失敗とは、IIJ-Techが2002年にリクルートエージェントから受注した基幹系システムの再構築プロジェクトのことだ。リクルートエージェントの求める機能の一部を実装できないなど、不完全な状態のままシステムを動かすことになってしまった。

 このことでリクルートエージェントは、IIJ-Techのことを「業務アプリケーションの開発力は高くない会社」と評価。基幹系再構築の一件以来、リクルートエージェントが開発案件を企画しても、IIJ-Techに声をかけることはなかったのである。

 それでもIIJ-Techは、基幹系の再構築の際に請け負ったネットワークやサーバーなどの運用業務は、任せてもらえていた。だが、開発案件で声のかからない状況が続いており、アカウント営業としては不本意だったのである。

通いつめコンペ参加の権利を得る

 「新たな開発案件を取りたい」。並木は、リクルートエージェント担当となった2006年9月から約1年間、週に3~4回のペースで、システム部門を訪問した。これにより、問い合わせなどに迅速に対応するだけでなく、次の商談の機会をうかがったりできると考えていた。

 このかいがあって、並木は2007年7月下旬、「勤怠管理システムを新たに構築する」といった情報をつかんだ()。リクルートエージェントは、タイムカードによる紙ベースの勤怠管理業務を電子化して、効率を高めようと考えたのである。

表●リクルートエージェントがアイアイジェイテクノロジー(IIJ-Tech)に勤怠管理システムを発注した経緯
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表●リクルートエージェントがアイアイジェイテクノロジー(IIJ-Tech)に勤怠管理システムを発注した経緯

 この方策としてリクルートエージェントは、ICカードで入退室状況を管理するシステムと、新たな勤怠管理システムを連携させ、出退勤時刻を自動収集・管理することにした。

 「開発力に不安はあるが、今回は提案をお願いしてみよう」。リクルートエージェントの事業戦略支援ユニットで情報システム部長を務める風間洋二は、並木の営業熱心な姿勢もあって、こう判断した。新システムとデータをやり取りする入退室管理システムの導入を、IIJ-Techが担当していたことも、声を掛けた理由だった。

 リクルートエージェントは2007年8月20日、付き合いのあるITベンダー3社に勤怠管理システムのRFP(提案依頼書)を提出した。コンペに参加した3社は、IIJ-Techと、人事・給与システムを担当するメーカー系SIerのA社、基幹系システムを手掛ける大手SIerのB社である()。

図●ITベンダー3社の提案などに対するリクルートエージェントの評価。コンペには既に付き合っている会社が参加した
図●ITベンダー3社の提案などに対するリクルートエージェントの評価。コンペには既に付き合っている会社が参加した
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 まず並木は、市販の勤怠管理パッケージが使えないかどうかを検討した。ところが、想定していたパッケージの標準機能では、対応するのが難しいことが分かった。リクルートエージェントの人事制度や休暇制度は、一般的な企業と異なる点が多かったのだ。

 カスタマイズする方法はあるが、開発見積額は約3000万円になる。リクルートエージェントが提示していた開発予算の2000万円を超えてしまう。

 「カスタマイズが多くなれば、初期投資だけでなく、将来のバージョンアップ費も膨らんでしまう」。こう考えた並木は、パッケージを適用するのではなく、自社開発を提案することにした。

 だが、また壁にぶつかる。自社開発だと、開発費がおよそ6000万円になることが分かったからだ。「予算の3倍の数字を提示して勝てるわけがない」。並木は開発費を抑制するため、IIJ-Techのソフトウエアソリューション部の部長代理である深澤良祐に、頭を下げた。

 並木の熱意から深澤は、開発工数を何度か見直す。こうして、開発見積額を約3000万円にした。