2003年の通信関係の主な出来事

●リップルウッドが日本テレコムを買収(8月)

●J-フォンがボ-ダフォン・ブランドに移行(10月)

●地上デジタルテレビ放送が開始(12月)

 現在では当たり前となった「高速」,「定額」の携帯電話サービスが世界に先駆けて登場し,モバイル・ブロードバンド時代が始まったと言える年が2003年である。

 幕を開いたのはKDDI(au)の「CDMA 1X WIN」サービス(写真)。03年11月にスタートした同サービスは,米クアルコムの第3.5世代携帯電話技術「CDMA2000 1xEV-DO」を使い,下り最大2.4Mビット/秒,実効速度でも600k~800kビット/秒の高速データ通信を実現した。最初の対応端末は日立製作所製「W11H」と京セラ製「W11K」の2機種だった。

 当時,ライバルのNTTドコモが提供する第3世代携帯電話(3G)サービス「FOMA」のデータ通信速度は最大384kビット/秒。KDDIの3Gサービス「CDMA 1X」は最大144kビット/秒に過ぎなかった。それがCDMA 1X WINでいきなり数Mビット/秒になったために使い勝手は格段に向上,大容量のコンテンツが充実した。

衝撃与えた定額制「EZフラット」

 高速化以上にインパクトが大きかったのが,CDMA 1X WINの開始と同時に用意した定額メニュー「EZフラット」である。月額4200円で携帯電話端末用のWeb閲覧/メール・サービス「EZweb」が使い放題となった。

 EZフラットの登場まで,有限の電波を使う携帯電話で定額制は「ありえない」と考えられていた。KDDIの小野寺正社長も「携帯電話への定額制導入は絶対に無理」と断言していたが,適用対象をEZwebに限定することで実現可能と判断。社内の激しい反対意見を押し切って導入に踏み切った。

 EZフラットの登場は競合企業に衝撃を与えた。EZフラットが電撃的に発表された03年10月22日,NTTドコモの本社は大騒ぎになったという。当時の立川敬二NTTドコモ社長は「携帯電話の電波は公共的なもの。それを特定の人に割り当てる定額サービスはいかがなものか」と,直後の会見でKDDIを批判したほどだ。

携帯コンテンツ・ビジネスを刺激

 KDDIはCDMA 1X WINとEZフラットの開始に併せて,高速かつ定額のメリットを生かす様々なサービスを用意した。例えば,動画などのコンテンツ配信サービス「EZチャンネル」がある。大容量ファイルの代表である動画の配信は,高速・定額のサービスだからこそ実現できたものだった。その後,KDDIは「着うたフル」を開始。携帯電話向け音楽配信サービスにいち早く乗り出した。

 CDMA 1X WINとEZフラットはユーザーに広く受け入れられ,KDDIが契約者純増数で03年から07年までの5年間にわたり1位を保つ原動力になった。

 他社への影響も大きかった。KDDIを批判したNTTドコモは,04年に定額メニュー「パケ・ホーダイ」を開始し,KDDIに追随した。ボーダフォン(現ソフトバンクモバイル)も04年に定額の「パケットフリー」を導入した。06年には,NTTドコモとソフトバンクモバイルがHSDPA(high speed downlink packet access)を使う高速データ通信サービスで下り最大3.6Mビット/秒のサービスを開始し,速度面でもKDDIに対抗できるようになった。