NTT 環境エネルギー研究所
主幹研究員
染村 庸

 地球温暖化に代表される気候変動問題は年々深刻さを増しており,世界的な取り組みが必要とされている。近年,情報通信技術(ICT: Information and communications technology)は急速に普及し,「情報通信白書2008」によれば,インターネットの利用者数および人口普及率は,それぞれ,2007年に8811万人,69%にも達している(図1)。このため,ICTによる環境負荷も増大しており,情報通信システムやデータセンタの省エネ(Green of ICT)が急務になっている。

図1●インターネット利用者の拡大
図1●インターネット利用者の拡大
インターネットの利用者数および人口普及率は,2007年にそれぞれ8811万人,69%にも達した。出典:「情報通信白書2008」

 一方,ICTを活用することにより,ICT以外の他分野の環境負荷を削減すること(Green by ICT)が期待されており,ICTは環境負荷を低減可能な技術としての認識が広がっている。このような状況の中,ITU-T(国際電気通信連合 電気通信標準化部門)で,「ICTと気候変動に関するFocus Group (FG)」が2008年7月に設立された。このITU-Tにおける標準化活動を中心に,地球環境問題にICTが果たす役割について,5回にわたって連載したい。

 第1回の本稿では,ICTの普及にともなって地球環境に及ぼす問題を中心に述べる。第2回では,ICT利活用による地球環境問題の解決に向けた「Green by ICT」の環境負荷低減の試算例や「Green of ICT」の具体的な事例を紹介する。第3~4回では,「Green of ICT」や「Green by ICT」を定量的に算出するための評価手法を国際標準化する意義やITU-Tにおける標準化の動向について,最終回の第5回では,グリーンICTを企業がどのように活用するべきか,国際標準化手法を使うことによる企業メリット等について述べたい。

2007年度の日本の温室効果ガス排出量は過去最大に

 2005年2月に京都議定書が発効し,日本は2008年から2012年までに温室効果ガスの総排出量を1990年レベルより6%削減することが求められているが,総排出量(CO2換算)は2007年度で13億7400万トンと,2年ぶりに増加して前年度比2.4%増え,過去最大の値となっている。京都議定書の基準年である1990年の総排出量(12億6100万トン)を9.0%上回っており,議定書を達成するためには,現状よりも15%の温室効果ガスの削減が必要となる。

 温室効果ガスのうちメタン(CH4),一酸化二窒素(N2O),代替フロン等の3ガスは基準年比で大幅に減っているが,大部分を占めるCO2排出量は13億400万トンで,基準年比14.0%,前年度比2.6%増加した。これは,原子力発電所の利用率の低下や渇水による水力発電電力量の減少に伴い,火力発電電力量が大幅に増加し,電力排出原単位(kg-CO2/kWh)が悪化した影響が大きい。

世界の平均気温は100年後に4度上昇とIPCCが予測

 IPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change,気候変動に関する政府間パネル)が2007年に公表した第4次評価報告書(統合報告書)は,世界全体の平均気温が2005年までの100年間で0.74度上昇したと報告している。20世紀後半の北半球における平均気温は,少なくとも過去1300年間で最も高温であった可能性が高く,20世紀半ば以降に観測された世界平均気温の上昇のほとんどは,人為起源の温室効果ガスの増加によってもたらされた可能性がかなり高い(発生確率90~99%)としている。

 気温が上昇すると,極端な高温や熱波の頻度の増加,大雨による洪水リスクの増加,干ばつ地域の増加,感染症のリスク増加など,自然環境や人間社会にさまざまな悪影響がある。同報告書は,温暖化の影響を小さくするには,今後20~30年間の努力とそのための投資が必要であるとし,将来の温室効果ガスの排出量に関して,6つのシナリオを提示している。このうち,最も排出量が多いシナリオの場合,世界の気温は100年後に4.0度も上がると予測し,最も排出量が少ない場合でも1.8度の上昇と,どのシナリオでも気温の上昇は避けられず,前世紀に観測されたものより大規模な温暖化がもたらされると予測している。