米Palmのスマートフォン「Palm Pre」は2009年6月6日(米国時間)に米国で発売され,明らかに同社のヒット商品となった(関連記事:Sprint Nextelが「Palm Pre」を6月6日に発売,通信契約/キャッシュバック込みで199.99ドル)。とはいえ,ライバルである米Appleの「iPhone」に比べると,はるかに地味で話題になっていない。そのiPhoneでさえ,米国スマートフォン市場における人気ナンバー1ではない。相変わらず同市場を牛耳っているのは,カナダResearch in Motion(RIM)の控えめで派手さに欠ける「BlackBerry」である。BlackBerryの市場シェアは,PalmやApple,その他のメーカーが新型デバイスを投入したにもかかわらず拡大を続けている。

好スタートを切った「Palm Pre」

 Palmの公表したデータによると,同社と契約している携帯電話キャリアは発売1週間で約10万台のPalm Preを販売し,50万台超という2009年第2四半期の目標販売台数を達成できる見通しであるという。最初の週にPalm Preを購入した人の35%は,現時点で唯一の同デバイス対応キャリアである米Sprint Nextelの新規契約者だった(キャリアの選択肢を減らして大きなメリットを得るという点では,Palm PreもiPhoneとよく似ている)。

 Palmは,Appleによる第3世代iPhoneの「iPhone 3G S」発表よりもかろうじて前にPalm Preを発売できた(関連記事:Appleが新端末「iPhone 3G S」を6月19日発売,新OS「iPhone OS 3.0」の登場は6月17日)。iPhone 3G Sの米国発売は6月19日で,現行モデルよりパフォーマンスが向上し,ビデオ撮影ができる。ただし,既存iPhone 3Gユーザーの大多数はキャリアと結んだ報奨金付き契約に縛られているため,iPhone 3G Sにへアップグレードしようと思っても2010年以降でないと割高になる。iPhone 3G Sの販売はPalm Preを上回ると予想されており,そうなればAppleは発売1週間の販売状況を大げさに発表するだろう。

iPhoneのシェアは2割弱で縮小傾向

 iPhoneに話題が集中し祭り上げられているので,Appleがスマートフォン市場を支配しているように思えるかもしれない。ところが事実はそうではない。現在iPhoneの米国スマートフォン市場におけるシェアは19.5%で,2008年第3四半期に記録した30%より縮小してしまった。これに対し,RIMのBlackBerryは55%以上の市場シェアを持っている。しかも2008年第3四半期の40.4%から大きく増えた(不思議なことにAppleは,2009年6月第2週にさんざん宣伝した「iPhone偏重カンファレンス」でこうしたデータに関するスライドを1枚も見せなかった)。

 RIMは,Appleと全く違う物静かなやり方でBlackBerryの成功をいかそうとしている。読者が初めて耳にするであろう新モデル「BlackBerry Tour」を発表したのだ。BlackBerryはAppleの大げさで容赦のないマーケティング活動にさらされても,価格,選択肢,入手のしやすさという極めて実用的な理由で成功を収めている。BlackBerryは,iPhoneと違って1つの端末が事実上どのキャリアでも使える。AppleはiPhoneを販売しているほとんどの国で対応キャリアを1社に制限する戦略をとっている。このため,キャリアの選択肢がない。

 しかも,RIMの端末はiPhoneよりかなり安いことが多い(米Verizon Wirelessは「1台買えば1台無料進呈」というBlackBerry向けサービスまで用意している)。米国でiPhoneを独占販売している米AT&Tですら,iPhoneユーザーと同じくらい多くのBlackBerryユーザーがいる。

 米国から全世界に目を向けると,状況は少し変わる。もっともAppleにとってよい話ではない。世界スマートフォン市場のシェアは,フィンランドのNokiaが41%,RIMが20%ある。AppleはRIMの半分に過ぎず,まだ「Windows Mobile」にも負けている。

 スマートフォンをすでに利用している人やこれから使おうとしている人にとって,こんな数字はどうでもよい。現実問題として大切なことは,選択肢と機能が少しずつでも増え,価格が適当な水準に下がることだ。次に買うスマートフォンがPalm Preになるかどうか分からないが,こうした方向に進めてくれたPalmには感謝している。