“圧力団体”という言葉をよく耳にしますが、いったい何のことだと思われますか? 定義は至極簡単です。経営改革や現場改革、商品開発などあらゆるプロジェクトの決定に際して大きな影響(圧力)を与える団体(個人)のことを指します。そして、プロジェクトリーダーにとっては、極めてやっかいな“抵抗勢力”でもあります。

 実は、すべての企業に“圧力団体”は存在します。

 例を挙げれば、古くからの付き合いであるお抱え団体(ベンダーやコンサルタント)、経営陣と友人・知人関係がある団体(同)、ビジネス上の深い繋がりを持つ企業(得意先など)、親会社、政党(政治家)、労働組合などです。おそらくこれらの団体の影響を受けて、本来自分たちが進めようとしていた方針(プロジェクトの方向性)や実現手法を大きく変更させられたり、決定直前にインターセプトされたりという経験を持つプロジェクトリーダーの方は多いと思います。

 私自身も多くの経験を持っています。この類(たぐい)の経験は、快いものが全く無く、苦々しいものばかりであるといっても過言ではありません。特に、自分たちが考えに考え抜いた末、会社のために最もよい方法だと判断して決定した方針や実現手法をあっさりと変えられてしまうと、部門全体のモチベーションの低下や部門トップの信頼が大きく揺らぐ結果になることがあり、非常に危険な環境を作り出します。

 以前、欧米の企業やマスコミから、日本企業の“系列”について批判されたことがあります。ある“系列”に属しているがゆえに、いくら性能が良くて安くても、“系列”以外の企業からは製品を買うことができないという、“利益を度外視した背任行為”が、フェアなビジネスを阻害する参入障壁であると強く非難されたのです。

 私は企業グループ全体のオーバーヘッドや雇用確保を考えると、“系列”優先というのはそれほど大きな問題とは思いませんが、ビジネスをフェアに行うということは日本企業にとってもとても重要であることは明白です。この“しがらみカルチャー”は、長期にわたって改善すべき課題であることはいうまでもありません。

下手をすれば左遷、くれぐれも注意深くコトを進める必要がある

 さて、これら“圧力団体”と戦うのは、とてつもない勇気とパワー、そして緻密(ちみつ)な戦略を要します。戦い方を一歩間違えると、下手をすれば左遷となる恐れがあります(笑)。ですから、くれぐれも注意深くコトを進める必要があります。

 プロジェクト開始当初から“圧力団体”の関与がある場合、手っ取り早い対抗策は、“圧力団体”と仲良くなって、彼らに自分たちの考えた方針や実現手法を理解せることです。しかし、そう簡単ではありません。例えば、彼らが社長のお抱えであった場合、自分たちが彼らの顧客であるにもかかわらず、立場は彼らのほうが上であることが往々にしてあるからなのです。

 そこで重要なのが、強力な“圧力団体”であるとはいえ、自分たちが顧客であることは間違いないのですから、ビジネス上のアドバンテージをすべて彼らが持っているわけでは無いという考えを持つことなのです。そして、経営陣が未来永劫(えいごう)変わらないという企業は無いのですから、“圧力団体”自身も経営陣の動向を非常に気にします。

 要は、表面上は優位な態度を保っていても、内心はビクビクしている部分があるということになります。この2点は対抗戦略上非常に重要なポイントになりますので、絶対に忘れてはなりません。そのうえで、本心では無くとも、「これからも末永くビジネスを続ける」「良好な関係を築く」という姿勢を彼らに示し続けることが有効であると思います。

 例えば、あるプロジェクトを進めていた場合、「この案件の後にも、別件がいくつかあるが、できたらそれも御社と協力して進めたいと考えています」。などと伝えると、彼らはリピートオーダーを期待し、将来のためにも「こいつとは仲良くしておいたほうが得だな」と考え出します。

 こうなると“圧力団体”の圧力を自分たちのために使うことができるようになります。しかし、厄介なケースが、プロジェクトがうまく進まなかったり、それまでの自社の考え方では成果が上がらなかったりする場合に介入してくる、鳴り物入りの“圧力団体”の場合です。

 私もこのケースに遭遇した経験がありますが、元々自社内で行っていたプロジェクトや対策がうまくいっていないのですから、端(はな)から負け犬的思考になってしまいがちです。プロジェクト会議で主体的に発言すると「君たちは失敗したのだから、偉そうなことを言うな」的な指導を受けてしまうことを恐れるあまり、“圧力団体”に対してハッキリ自分たちの考えを主張できなくなり、従順な僕(しもべ)のごとき関係に陥ってしまうのです。