Q:不況が終わったら転職したいが,それまでどう過ごすべきでしょうか

 大企業のシステム子会社に入社して10年,主に基幹系の開発をやってきて現在は10数名のメンバーを抱えるリーダーとして働き,職位も係長になりました。親会社のシステム開発をやっているのでどうしても緊張感がなく,スキルも固定的な範囲のものばかりで自分の将来に不安を持ち,今の不況が来るまでは,転職して自分を試してみようと思っていました。

 しかし,この業界環境では転職も難しくなり,一方,親会社からの仕事も今年度は減ることが確定しています。今はじっと耐えて業界状況が好転してから転職しようと思うのですが,それまでをどのように過ごしたらよいでしょうか?
(SE/男性・33歳)

A: スキル分野の縦と横を拡充し,仕事力を向上せよ。

 まず,あなたの素晴らしいところは,現状を見つめながらもチャレンジ精神を持っていることです。そのうえで,「転職を控える」というあなたの判断は正しいと思います。

 理由は2つ。第一に,大企業のシステム子会社は“温室”のようなものなので,温室内でよく育ったからと言って外気に触れても大丈夫とは限らないからです。このことはあなたもお気付きのようですね。

 第二に,大企業のシステム子会社と同レベルの給料をもらうには,外部ではそれなりの地位でなければならず,ましてやこの不況で転職するとしたら,かなり高い要求レベルを満たす必要がありますが,あなたの現在のスキルではそれは難しいでしょう。

 そこで不況が過ぎるまでにあなたがしておくべきことことは,「スキル分野の縦と横」の拡充と,仕事力の向上の2つです。

 ある特定スキルで深く専門知識を持ち,外部でも胸を張っていられるレベルになること――これがスキル分野の縦の深堀りです。スキル分野の横とは,より需要の高いスキル分野に能力を広げることです。

 あなたの場合,既にプロジェクト・リーダーをなさっているので,プロジェクトマネジメントのスキルを高めるのが,スキル分野を縦に深堀りする近道でしょう。これは既に研修などを受講していらっしゃるでしょうから,さらに,実務での体験を広げて(スキル分野の横を拡充して),何かの資格を取るのが,外部からも認められやすいでしょう。そうやってスキル領域をT字型で広げるのが,SEとしての基本です。

コミュニケーション力,マネジメント力,突破力の3つを高める

 次に仕事力の向上ですが,これは「コミュニケーション力」「マネジメント力」「突破力」の3つの軸で考えればいいでしょう。これらはどんな職場にも必要で,将来どのような仕事をしようとも,必ず役に立ちます。ただしこれらを詳細にカバーすると,1冊の本になってしまうので完結にポイントだけ説明します。

 まず,コミュニケーション力向上のための3つのポイントです。

・ 話す前に論理構成と相手の気持ちを考える
・ 相手の目を見ながら感情の変化を読み取る
・ 相手の変化に応じて落し所を模索する

 SEは,元来論理的にものを考えるのは得意なはずです。普段の会話でも,他の職種よりはかなり理屈をこねるものです。

 しかし,論理的に会話するだけで相手が納得してくれるとは限りません。特に日本人の職場では,理屈よりも感情が優先する場合があります。仕事におけるコミュニケーション力とは,相手を説得し仕事に役立てるものでなければならないので,感情の要素もかなり大きいのです。この点をSEは忘れがちなので,話す前に,論理構成だけでなく相手はどのような感情を持っているかを考えておくことが大事です。

 また,SEには相手を直視して会話するのが苦手な方が多いように思えますが,これではいくら言っていることが正しくても,本人の自信が感じられず説得力が減ります。相手を直視するのは単に自信を見せるだけではなく,相手の感情の変化を読み取るためにも大事です。

 相手の琴線に触れて感情が変化しているのに,それに構わず会話を続けるのは愚の骨頂です。相手の変化に応じて話し方を変えたり,話題を変えたりするのがコミュニケーションの基本です。そうやって相手の変化を読み取っていると,その会話の落し所がわかってきます。それが当初予定していたものと違っている場合もありますが,相手の感情を害して無理に説得しても無駄なわけですから,結論を次回に持ち越したり,別の落し所に落ち着けたりといった判断が必要になります。

 これらは,普段の会話でも訓練できることですから,日常会話の中でこの3点に気をつけて会話してみてください。きっと相手はあなたの成長に気付いてくれるでしょう。