エーピーシー・ジャパン
ソリューション事業部 プラットフォームエンジニアリング部
プラットフォームエンジニア
山本 武

 IT機器の小型化・高密度化が進むにつれてその消費電力も急増する中,電源容量設計の重要性が高まっている。自社のITインフラがどの程度の電源システムを必要としているかを正確に見積もれないと,データセンターやサーバールームの信頼性や安全性を確保するためのファシリティを正しく選択できない。逆に,必要以上に多く見積もると,過剰な電源設備を利用することになり,コストが増えるだけだ。

 電源を無視してITインフラを構築・運用するのは困難である。環境意識の高まりで省電力化も求められている。本連載では,IT部門がぜひ知っておきたい電源設計の基本を解説する。

IT機器の電力消費はどれくらいか

 いまやIT機器はよりコンパクトになり,情報処理能力は飛躍的に向上した。しかし,同時に単位面積あたりの電力消費量もますます増えており,現在ではサーバーラック1面あたり数十kWの電力消費というのも珍しくない。

 オフィスや住宅のような一般的な施設の電気設備は,ほとんどが照明,コンセント,空調であり,使用頻度や電力のピーク値もある程度予測できる。このため,設計時に必要な電源容量を計算することは比較的容易である。

 一方,工場では様々な生産機器が稼動しており,これらを駆動するモータなど動力機器は,正逆転やスピード制御のために,時間や状況によって稼動状態が変化し,消費電力の増減が大きい。また移設や増設もあるため,当初設計した電源回路とは異なってくる。

 このような設備では,負荷機器に必要な電力をカタログ値から計算するだけでなく,実際の電力変動や負荷の状況を十分に考慮して設備容量を決め,なおかつ末端の分岐回路もバランスよく設計しなければならない。

 では,サーバーやストレージのように,データセンターで一般的に使用されるIT機器について考えていこう。例えばサーバーの電力特性とはどのようなものだろうか。機器のカタログには,一般的に最大消費電力や定格消費電力が記載されているが,電力の変動特性についてはあまり詳しく記載されていないだろう。実際の電力消費は一定ではなく,状況によってかなり変動している。

 初期のころのサーバーでは,内部で電力を消費するものといえば,主に冷却用のファンやディスク装置などで,装置全体で見た消費電力は,数%程度の変動しかなく,ほぼ一定といえた。またCPU(プロセッサ)の消費電力はわずかなものだった。ところが,現在のサーバーは,ブレード化あるいはマルチプロセッサの採用などによって,高容量・高密度化が進み,CPUの搭載数が増えて情報処理能力が高くなるにつれ,消費電力の変動幅も増えている(図1)。

図1●サーバーの消費電力の変動は大きくなっている
図1●サーバーの消費電力の変動は大きくなっている
初期のころのサーバーでは,装置全体で見た消費電力は数%程度の変動しかなかった。それが,現在のサーバーはCPUの搭載数が増えて高密度化し,消費電力の変動幅も増えている。

 一方で,CPUの電力消費を制御することもできるようになっている。サーバーがあまり稼動していないときは電力消費を節約できるが,サーバーがフル稼動するときには消費電力は最大になる。結果として稼動状態による電力消費量の差が非常に大きくなっている。

 例えば,あるブレード・サーバーのモデルでは,待機時の消費電力が1.5kWであるのに対し,最大稼働時の消費電力が2.7kWとなり,その変動率は80%にもなる。機種によっては100%を超えるものもある。サーバーは時間帯やその他の理由で情報処理が集中すると,フル稼働状態となり,電力消費もピークを迎えることになる。

 設備の規模が大きくなり,IT機器の台数が増え,その情報処理量も増えるほど,電力消費量だけでなくその変動も無視できないほど大きくなってくる。これに加え,増設や移設が頻繁にあると,負荷の状況を把握することも困難になる。

 このような状況では,電源容量が十分であっても,負荷側の回路によっては過負荷を起こす恐れもあるため,電源の分岐回路を適切に設計する必要がある。もちろん,分岐回路における問題だけではなく,どのような障害に対しても可能な限り負荷に影響を与えないよう対策を講じ,安全で信頼度の高い電源システムを構築することが不可欠である。