写真1●クラウドコンピューティングコンペティションの模様(撮影:首藤一幸氏)
写真1●クラウドコンピューティングコンペティションの模様(撮影:首藤一幸氏)
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 「日本でゼロからクラウドを生み出すムーブメントを作り出したい」(実行委員長 門林雄基氏)---“クラウドを支える技術”の開発力を競う「クラウドコンピューティングコンペティション」が2009年6月11日、Interop 2009の会場で開催された(写真1)。企業や大学・大学院の研究者、そして高校生を含む若手エンジニアが、新しいアイディアと技術力で作り上げたクラウドコンピューティングの基盤ソフトウエアを披露した。

 クラウドコンピューティングコンペティションは、奈良先端科学技術大学院大学の門林雄基准教授らの呼びかけで実現したイベント。若手のエンジニアがP2P(ピア・ツー・ピア)技術や分散データ処理技術といったクラウドコンピューティングの基盤技術を開発し、その成果を競う。検証環境として、情報通信研究機構(NICT)が運用するクラスタ環境「StarBED」のコンピュータを最大1000台まで使用可能で、コンペ参加者が開発したソフトウエアの性能やアイデアなどを評価する(関連記事:出でよ、日本発の「クラウドを支える技術」)。

写真2●実行委員長の門林雄基氏(奈良先端科学技術大学院大学准教授)
写真2●実行委員長の門林雄基氏(奈良先端科学技術大学院大学准教授)
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 5月15日に書類審査による一次選考を、6月2日に実行委員による面談審査などによる二次選考を実施。Interop 2009の会場で、選考を通過した10チームによるライブデモを含む最終審査を行った。実行委員長の門林准教授は「クラウドコンピューティングは、インターネット40年の技術開発の集大成。だがそれゆえに、基盤技術の開発者は年長者が多い。若いエンジニアがクラウドの単なる“お客さん”になっている現状に、危機感を持っている。日本でゼロからクラウドを生み出すムーブメントを作り出したい」と狙い語った(写真2)。

 コンペに参加した10チームの構成は、高校生による単独参加や、大学・大学院生によるチーム、大手ベンダーの研究所仲間、それぞれがエンジニアとして働きながらコンペのために集まった大学時代の研究仲間など幅広い。取り上げたテーマとしては、クラウドコンピューティング時代のデータ処理技術として重要性が増している「キー・バリュー型データストア」(関連記事:「キー・バリュー型データストア」開発者が大集合した夜 無いから作った人たち)が人気を集め、5チームが関連ソフトウエアを開発した。

 純粋な研究用として作られたソフトウエアもあるが,商用化を前提として開発したチームもある。実際に何百台もの環境で実用性を証明したソフトウエアもあった。各チームの発表内容を紹介する。

コンシステントハッシングを採用した高速キー・バリュー型データストレージ

写真3●「えとらぼ」チームの発表(撮影:首藤一幸氏)
写真3●「えとらぼ」チームの発表(撮影:首藤一幸氏)
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 「えとらぼ」チーム(メンバーは古橋貞之氏と廣瀬正明氏、写真3)は、キー・バリュー型データストアを用いた高速・高信頼性ストレージ「kumofs」を発表した。データの急増に柔軟に対応可能でかつ、データの喪失が起こらないという特徴を持つ、Webサービス用バックエンドストレージを想定して開発したという。

 kumofsはデータは複数のノード(サーバー)に複製を3つ作った上で分散保存するため、耐障害性が高く、データ入出力も高速だ。またデータの配置にはコンシステントハッシングの手法を使用しているため、ノードを追加したり削除したりした場合でも、負荷が自動的に分散されるため、動的な運用が可能である。

 分散メモリーキャッシュ技術として人気の高い「memcached」と互換性のあるAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)を備える。memcachedとの違いは、データをハードディスクに保存することと、データが自動的に複製されることだ。それでいて「memcachedとほぼ同じデータ入出力速度を維持した」(古橋氏)という。

 発表では、1台のノードでmemcachedやkumofsを運用した場合のスループット性能を比較。1Kバイトのデータを3台のクライアントから読み出すというテストで、memcachedが11万リクエスト/秒を、kumofsが11万4000リクエスト/秒を処理した。

 またkumofsのノードを増やしながら、50台のクライアントから同時に256個のデータ(各32バイト)を読み出すというテストを行ったところ、10台では80万リクエスト/秒だったkumofsの処理性能が、60台では320万リクエスト/秒にまで向上した。