素早く動ける能力の提供が究極の使命、困難な時期だからこそITでコスト削減

　IT（情報技術）との初めての出会いは、カスタマーサービスを通してだった。大学を卒業後、金融機関のカスタマーサービス部門に配属されたのだが、社内のIT部門と一緒になって、顧客からの問い合わせ電話に対応する「音声自動応答システム」の開発を手伝う機会があった。ITの世界が非常に気に入り、この分野で働くきっかけとなった。

　サンディスクには2003年、IT部門の中のヘルプデスクと既存システムの運用を担当するマネジャーとして入社した。当時は小さな会社で、IT部門には 30人も社員がいなかったと思う。会社の規模が小さかったのでITの様々な機能を必要としていなかったが、事業活動の範囲がグローバル化するとともに会社もIT部門も急拡大した。現在ではイスラエルやインド、中国、日本、台湾、欧州の拠点にもITスタッフを配置し、IT部門の社員数は全部で100人を超える規模となった。

　2008年からは暫定的なCIO（最高情報責任者）として、ハード面でのITインフラはもちろんのこと、社内向けの各種の情報システムと業務システムのアプリケーション、社員のヘルプデスク、セキュリティー問題まで統括している。

仮想化を推進し、コスト削減と省エネを徹底

　これまでに従事した大きなプロジェクトとしては、アウトソーシングがある。2008年にハードウエアなどのITインフラのサポートの大半を、アウトソースすることに成功した。その目的は、ITインフラにかかるコストを注意深く管理できるようにすると同時に、必要とされるサポートの規模を計測し、柔軟に対応できるようにすることである。ITスタッフの人員整理ではなく、あくまでも社内向けのITサービスの機能や規模を柔軟に管理することを目的としてきた。

　また、アプリケーション面での大きなプロジェクトとしては、中長期にERP（統合基幹業務システム）ソフトウエアの導入を進めており、2009年はその作業を完了させるゴールの年となっている。

スコット・ディロン氏

フラッシュメモリーデータストレージの世界最大手。1988年設立。デジタルカメラなどの普及に伴いコンパクトフラッシュカードやSDカードなどの需要が急伸し、会社が急成長した。2008年の売上高は33億ドルで、純損失は20億ドル。本社は米カリフォルニア州、従業員は3000人

　ERPの導入で特に苦労した点は、事業部門との綿密な連携と協力が必要になることだ。事業活動は日々続いており、製品のブランドイメージも日々形成される。だから、ERPに合わせて業務プロセスを変えてくれと事業部門に言っても、すぐその通りに動いてくれるわけではない。また、当社が導入中のERPは、人事や財務だけでなく、営業や製造などあらゆる業務に適用するものなので、機能が複雑で多岐にわたる。だから、様々な部門の日常的な業務プロセスを分析してERPの使い勝手や機能を検証する必要がある。

　しかしながら、ITスタッフというのは基本的に、新たなテクノロジーやエキサイティングな事業があると我を忘れて仕事をするものだ。困難なITプロジェクトであっても、参加できるということ自体が、ITスタッフのモチベーションを高める。

　IT部門の究極の使命は、市場の変化に応じて企業が素早く動ける能力を提供することだ。現在は多くの企業でも同様だが、当社は社内の様々な部門のコスト管理に非常に神経を使っている。今日のような経済環境下では、新たなITを導入してさらなるビジネスチャンスを見込むのではなく、より低いコストでより良い商品やサービスを提供できるように、商品やサービスや業務プロセスの整理と効率化をITで促すことが欠かせない。

　また、IT部門が担当する業務そのものの効率化も大切だ。その代表例は、サーバーやクライアントパソコンの「バーチャル化（仮想化：1台の物理的なサーバーを仮想的な複数のサーバーとして使う技術）」だ。新たなサーバーを購入するよりも、バーチャルなサーバーのほうが新しいアプリケーションの導入時間を短縮でき、ビジネスの迅速化にも貢献できる。また、サーバーのラックなど物理的に調達しなければならない間接材が減る。

　もちろん省エネの観点から、消費電力を抑制するためにパソコンの電源をこまめに切ることを事業部門に呼びかけるなどのグリーンITの取り組みや、プリンターの整理も進めている。また、サーバーを冷やす空調の燃料費を削減できるなど、ここでもバーチャル化が大きな役割を果たす。つまり、バーチャル化による IT業務の効率化は、企業が今後目標とすべき方向なのである。