「craplet(がらくたアプリケーション)」という言葉を聞いたことがあるだろうか。これは,家電量販店やインターネットで買った新品パソコンに入っている,うっとうしくて邪魔なちょっとした試用版ソフトウエアを遠回しに指す表現である。OEMや量販店は,何らかの理由があって,こうしたソフトウエアを付属させている。試用版ソフトウエアのベンダーが,多くの場合はOEMや量販店にちょっとした手数料を支払って,販売するパソコンに付けてもらうようになっている。パソコンの購入者が代金の元を取ろうとして製品版ソフトウエアを購入するので,試用版ソフトウエアはベンダーにメリットをもたらす。

 このビジネス・モデルをWebブラウザに適用したらどうなるだろうか。Webブラウザは無料で入手可能なソフトウエアである。試用版を使うことなどないし,代金を払って完全版にアップグレードすることもない。そのため,米Microsoft以外のベンダーがOEMや家電量販店に手数料を出してパソコンにWebブラウザを付けてもらったところで,現時点では何も意味がない。したがって,ベンダーがWebブラウザ販売で手数料を取り戻すという状況にもならない。

手数料を払ってパソコンにWebブラウザを付属させる市場が登場

 ところがWebブラウザを取り巻く環境が変化し,Webブラウザをパソコンに付属させるという市場がここに来て生まれてきた。OEMや家電量販店は,単なる親切心から欧州連合(EU)加盟国で販売する新たな次期クライアントOS「Windows 7」搭載パソコンにWebブラウザを付けてくれるとでもいうのだろうか。それとも,ほかの付属ソフトウエアの場合と同様に,Webブラウザ・ベンダーから手数料を取るつもりなのだろうか。

 米Googleに限ってみると,EU地域で販売される全Windows 7パソコンに「Chrome」がプリインスールされれば,収入につながるはずだ。だが,米MozillaとノルウェーOpera Softwareにとっては,OEMや家電量販店に手数料を払ってそれぞれの「Firefox」と「Opera」を同こんしてもらうメリットがあるか疑問である。Firefox/Opera(そして多くのその他Webブラウザ)がパソコンへのプリインストールを望むなら,例外なく「がらくたアプリケーション」経済に取り込まれることになる。

 これまでWebブラウザのベンダーは,自分たちのWebブラウザを無料でユーザーに提供できていた。ところが突如として,ユーザーに使ってもらうには金がかかるようになったのだ。

 もちろんOEMと各Webブラウザ・ベンダーは何らかの対策を講じ,ユーザーには「Internet Explorer(IE)」やChrome,Firefox,Operaを無料で提供するだろう。この方法が多少なりとも収入につながるとしたら,Webブラウザ・ベンダーは確実に採用するはずだ。