日本で圧倒的な地位を築いたユニクロは、海外進出を急ぐ。英国と米国で赤字基調が続く一方で、中国では黒字が拡大している。2002年の上海初出店から迷走が続いていたが、2005年ごろに持ち直した。「上質の日本ブランド」を前面に打ち出す戦略が奏功したからだ。 (文中敬称略)<日経情報ストラテジー 2008年1月号掲載>

プロジェクトの概要
 「2010年にグループ売上高1兆円」を掲げるファーストリテイリングは、M&A(企業の合併・買収)とともに、成熟する国内市場だけではなく、海外でもカジュアル衣料専門店「ユニクロ」の展開を進めている。中でも、10億人以上の人口を抱え経済成長著しい中国市場の重要性は高い。しかし、2002年9月の上海への初出店以来、迷走が続いていた。地場の市場に安価な衣料品が満ちあふれる中国では、相対的にコスト高のユニクロは受け入れられなかった。
 反転攻勢の始まりは2005年9月の香港出店だ。総経理(社長に相当)の潘寧(ハンチョウ)は、日本のユニクロよりも数割高い価格設定で「上質の日本ブランド」という価値を打ち出す戦略を実行。日本よりもはるかに高い利益率を実現した。潘はこの成功モデルを上海など中国本土にも適用。店舗改装やアジア最大級の大型店出店で攻勢をかけている。
超高層ビルが建ち並ぶ上海・浦東地区の大型ショッピングモール内にあるユニクロ上海正大広場店。2300&amp;#13217;の広大な売り場を誇る。並ぶ商品や陳列手法などは日本とほぼ同じ (写真:長舟 真人、以下同)
超高層ビルが建ち並ぶ上海・浦東地区の大型ショッピングモール内にあるユニクロ上海正大広場店。2300㎡の広大な売り場を誇る。並ぶ商品や陳列手法などは日本とほぼ同じ (写真:長舟 真人、以下同)
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 「温暖揺粒絨 169元」

 夜に少し冷え込むようになった10月下旬の中国・上海。超高層ビルが建ち並ぶ浦東地区にあるショッピングモール「正大広場」内のユニクロでは、定価199元(約3000円)のフリースを169元に値引く特売を実施していた。2006年12月に鳴り物入りでオープンした旗艦店で、約2300㎡というアジア最大級の売り場面積を誇る。

 同時期に日本のユニクロで大々的に売り出し中の「カシミヤ」は、上海ではまだ認知度が低く、売れ筋ではない。こうした細かな売り方の違いはあるものの、店の内装や陳列手法は日本のユニクロとそっくりだ。商品も日本と全く同じ。袋に印刷されたカタカナの「コットン」などの表示の上に、中国語のシールが張られている。

 同じ商品だが、価格は全般に日本より2割程度高い。冒頭のフリースは日本のユニクロでは1990円で買える。日本で3枚990円の下着用シャツも、上海では79元(約1200円)。タクシーの初乗り運賃が11元、平均賃金が月2500元(約3万8000円)の上海では、ユニクロは高級品の部類に入る。

 ユニクロの中国事業は、2002年9月に上海に出店したのが始まり。香港と上海を中心に13店(2007年8月期末時点)を出店している。業績は堅調だ。香港の売上高営業利益率は25%を超え、約15%の国内ユニクロ事業よりはるかに高い。上海など中国本土も前年は赤字だったが、香港の成功モデルを移植し、2007年8月期に黒字化した。

 「残念な結果だった」。2007年8月期決算発表で、各国ユニクロの持ち株会社であるファーストリテイリング会長兼社長の柳井正はうつむきがちに「残念」という言葉を繰り返した。増収だったが、経常利益は11.7%減の646億円になったからだ。

 その柳井が前向きに話したのが、アジア事業の説明をした時だ。「欧米の不調とアジアの好調が対照的だ」「元々“先進国”である香港に加え、上海でも消費経済が拡大している。大量に出店して、香港、上海、北京をドミナント化したい」と力強く語った。中国事業の売上高は約53億円。グループ全体の1%にすぎないが、前年比でほぼ倍増する成長軌道に乗っている。柳井はさらなる急成長にかけている。