クラウドコンピューティングに関する民間の研究グループであるネットコンピューティングアライアンス(NCA)は2009年5月8日,SaaS(Software as a Service)と広告を連動させたビジネスモデルを検討する研究会を発足すると発表した。ここでいう広告とは,例えばSaaSで提供される表計算ソフトの画面上に出すような広告を指している。NCAはSaaS事業者や広告代理店に広く参加を募り,早ければ6月から具体的なビジネスモデルやシステム構成の検討に入る考えである。

 NCAが想定するビジネスモデルの特徴は,各SaaSベンダーが利用者に提供しているSaaS上の広告スペースを取りまとめて広告主に提供することである。NCA 専務理事の津田邦和氏は,「日本のSaaSベンダー数百~数千社が協力できれば,広告を見る利用者数が飛躍的に多くなり,広告を出向する場所として価値が出てくる」と説明する。

 津田氏によると,SaaSの広告スペースはWebサイトに掲載するバナー広告よりも費用対効果が高いというメリットがあるという。理由は「利用者が明確であること」と「利用者の閲覧時間が長いこと」である。

 利用者の明確化とは,「SaaSベンダーが提供する広告スペースは,誰が見るのかがはっきりしていること」を指す。これまでWebサイト上のバナー広告は,誰がクリックしたか,閲覧したのかが分かりにくいという課題があった。一方SaaS上の広告では,SaaSベンダーとSaaSの利用者は必ず契約を結ぶため,利用者の属性が分かっている。プライバシーの観点から具体的な企業名や個人名は公開しないが,利用者の業種や職種,資本金や社員数といった企業規模が分かるだけでも広告主からは魅力的に映ると見ている。

 閲覧時間が長いことは,利用するものがアプリケーションであることが大きく関係している。Webサイト上のバナー広告は,別のページに移動すると閲覧されなくなる。しかしSaaSで提供されるのは例えば文書作成や表計算,スケジュール管理,メール送受信といった長時間作業するためのアプリケーションである。広告スペースが表示されている時間が長い分,利用者の目にとまりやすいと考えている。

 NCAは広告を積極的に取り込むことで,SaaSの市場拡大につながることも期待している。例えば「広告を表示することで,SaaSの利用料金を割り引ける」ことだ。利用料を下げられれば,コスト面の問題から利用をためらっていた個人や企業にSaaSを利用してもらえる可能性が高まる,というわけである。

 広告の料金や,課金方法をどのような形にする,広告の表示機能を各SaaSにどのように実装するかなど,詳細はこれから詰めていく。研究会で詳細が決まった段階で,広告出稿を受け付けたり各SaaSベンダーの広告スペースを取りまとめたりするための法人を設立する考えである。