この連載のテーマである「コミュニケーション」の大きな目的の一つは,エンジニアのモチベーション向上(動機付け)である。筆者は,エンジニアのモチベーションは,「スキルアップ」と「チームワーク」によって高まると感じている。スキルアップとチームワークはプロジェクトで働くことでもたらされるのが理想だが,常にそうともいかないのが現実だ。

 そんなときは,チームでスキルアップする喜びを濃縮した「ミニプロジェクト」の実施が効果的だ。ミニプロジェクトは,エンジニアのモチベーション向上を支援することができる。

ミニプロジェクトは課外活動

 ミニプロジェクトとは「エンジニアが興味の持てるテーマで取り組む課外活動」である。筆者は,次のような定義の課外活動を「ミニプロジェクト」だと考えている。

●業務外の時間で活動する
 課外活動なので当然ではあるが,業務以外の時間を使って活動に取り組む。

●チームで活動する
 複数人でチームを組んで行なう。一人で行なう場合は個人のスキルアップを目的とした勉強である。モチベーションを向上させるためにはチームワークの要素は欠かせない。

●チームで決めたゴールがある
 上司ではなく,チームメンバー自らが決めたゴールがあること。上からの押し付けでモチベーションが向上することは少ない。メンバー自らがゴールを決めることが大切だ。

ミニプロジェクトに適したテーマ

 ミニプロジェクトを活発化させるためにはテーマ選びが重要だ。自分が上司の立場でミニプロジェクトの発足に立ち会う場合は,テーマについては参加するメンバーに十分議論させた方がよい。特に,次の3点を重視するとよいだろう。

1.ユニークであること
 誰にでもできそうなこと,ネットで調べればすぐに分かることに取り組む意義は少ない。参加メンバーのモチベーションも向上しにくいだろう。このようなテーマが上がってくるということは,参加者が今一つ乗り気ではないか,ミニプロジェクトの趣旨がまだ理解できていないか,あなたが押しつけがましいかのいずれかだ。

2.ゴールが分かりやすいこと
 外部からの評価が得られるテーマはゴールが分かりやすくてよい。例えば,何らかのコンテストに応募したり,顧客にデモをして評価してもらったりするようなゴールの場合,結果は参加したメンバーに否応なしにフィードバックされることになる。自分たちの取り組んだことの評価が分かる,というのは継続する上で強いモチベーションになる。

3.いつかは業務に役立ちそうなこと
 業務と全く関係がないテーマを選んでも問題はないが,実際はこのようなテーマに対して参加者が多く集まることはまれだ。普段の業務の延長線上にあるテーマを選ぶと参加者のイメージがわき,活動も活発化する。「もう少しで手が届きそう」「興味はあるんだけど一人では…」といったテーマを選ぶとよい。

ETロボコンに参加

 ここからは,実際に活動しているミニプロジェクトを紹介しよう。「ETロボコンミニプロジェクト」は,「ETロボコンに参加し,本選出場を目指す中で組込技術を学び,チームワークを育てること」をゴールとしたミニプロジェクトだ。

 ETロボコンとは,組み込みソフトウエア開発分野におけるエンジニアへの分析・設計モデリングの教育機会を提供することを目的としたコンテストである。レゴマインドストームで組み立てた走行ロボットにソフトウエアを搭載し,その性能の優越をタイムアタックにより競い合う。毎年多数のチームが出場し,地区予選を勝ち残ったチームが本選にてグランドチャンピオンを競う。

 プロジェクトの概要は以下の通りである。

●参加メンバー:10人(コアメンバーと応援メンバー)
 コアメンバーは実際に活動するメンバーだ。ロボットを組み立て,プログラムを組む。応援メンバーは,何かあれば支援を行なうメンバーとなる。賛同者という意味合いが強い。

●活動頻度:週一度の合同定例会+分科会。活動はすべて定時後
 ミニプロジェクトはあくまで課外活動なので,活動はすべて定時後に行なう。ETロボコンプロジェクトは参加メンバーも多く,技術的な課題のレベルも高いので,週一度の定例会を欠かさず行ない,連絡や報告を怠らないようにしている。

●費用:大会の参加費用などは会社が負担
 費用に関しては会社にかけあって負担してもらった。もちろん,プロジェクトの意義や会社にとってのメリットは十分に説明し,承認される必要がある。

●その他:連絡や報告,ナレッジ蓄積には社内SNSを活用
 前回の記事で取り上げた社内SNSを活用している。グループ機能をつかうことで,メンバーに簡単に連絡できるのが便利だ。