
ソリューションプロバイダが製品やサービスを売り込みたいのは、当然のこと。だが、自分たちに都合の良い話ばかりだとうんざりする。
最近、こんなことがあった。システム部門内でクラウドコンピューティングに関する勉強会を実施し、あるITベンダーの担当者を講師に招いた。
講演の中心は、クラウドコンピューティングの導入メリットだった。従来よりシステム開発や運用・保守にかかる費用を抑えることができるといった内容だ。さらに米国ではクラウドコンピューティングの導入事例が増えているという。
「クラウドは間違いなく、今後の主流になります」と断言した後は、自社の宣伝。このITベンダーが手掛けているクラウド関連の商材やサービスの紹介になったのだ。
聞いていて、「頼んで失敗したな」と反省した。クラウドコンピューティングの導入メリットだけを知りたかったわけではない。
ユーザー企業としては、デメリットや注意点も知りたかった。いかなる製品やサービスにも、導入のメリットとデメリットがあるはずだ。
「すべてがうまくいく」と言われると、かえって怪しいと思ってしまう。クラウドコンピューティングに興味を持っていても、逆に導入に慎重にもなる。
これが消費者心理というものだろう。こうしたことがITベンダーの担当者は、分からないのだろうか。
クラウドコンピューティングについて知りたいことはたくさんある。例えば、セキュリティだ。
インターネット経由でアプリケーションを使えるようになるが、セキュリティのリスクや注意点はないのかどうかを、具体的に示してほしい。
システム障害のリスクや復旧体制についても把握したい。システムを特定のデータセンターに外部委託している場合なら、トラブル時に相談する窓口が決まっているが、クラウドコンピューティングの場合はどうなのかが分かりにくい。
ITベンダーの担当者に聞くと、「システムの稼働率99.99%を保証する」と答えるが、根拠が不明確だ。サーバーやアプリケーションの運用管理体制について、情報を公開してもらえないと、ユーザー企業としては不安である。
クラウドコンピューティングを導入する際の、現時点での問題点や注意点を教えたら、商売にならない。こうITベンダーの担当者が考えているとしたら、間違いだ。
新しい技術や製品・サービスに関するメリットしか言わないITベンダーが多いなか、課題や注意点を教えてくれれば、「このITベンダーの話は参考になる」と一目を置く。結果として、「クラウド案件ならここに任せてみようか」ということになるかもしれない。
自社の製品やサービスを押し付けるITベンダーが多いことに不満を感じているが、評価できるソリューションプロバイダも実在する。以前、当社の合併に伴うシステム統合の案件で優れた提案をもらえた。
当時、ある業務システムを当社に片寄せする方法を考えていたのだが、このシステムを担当していたITベンダーの意見は違った。「開発期間とコストを考えると、2社のシステムを接続するのが得策です」と進言してきた。
片寄せするとの当社の方針に従ったほうが、このITベンダーの儲けは大きかったはず。だが、そうせずに逆提案してくれた。信用できる相手だと見直し、現在も付き合いを続けている。(談)