この記事は日経ソフトウエア2009年1月号(2008年11月22日発売)に掲載した,特別レポート「はてなインターン日記(上)」(著者:伊藤直也氏)の再掲です。再掲にあたって一部編集していますが,ほとんどの記述内容は執筆当時の情報に基づいています。

 2008年夏,筆者が勤務するはてなは,大学生や大学院生の方を対象に「はてなサマーインターン2008」を開催しました。就職を少し先に控えた学生の皆さんが,はてなの京都オフィスで,4週間にわたって技術的なトレーニングや,実際のアプリケーション開発を体験するプログラムです。

 このインターンシップ,はてなにとって初めての試みでした。狙いは,Web業界または社会への貢献です。はてなは創業してもう7年,社長の近藤をはじめとするはてなスタッフは,企業の社会的責任として,業界あるいは社会に貢献したいという思いがありました。このインターンシップで,学生の皆さんにWeb技術を利用したビジネスや,ソフトウエア開発の“現場”を体験してもらい,この職業に就くことに希望を抱いてもらえれば,よい貢献ができそうです。

 もちろん,はてなの仕事を優秀な学生によく知ってもらい,気に入ったら就職してほしいという下心はあります。それよりも,筆者やはてなが大事にしたかったのは,参加者に成功体験を持ち帰ってもらうことでした。はてなが持っているものは可能な限り学生に与え,その代わり学生には社員と同等の品質で仕事してもらう体験---このようなインターンシップを目指しました。

 今回のインターンシップは,2008年の8月と9月にそれぞれ1回,全2回を実施しました。参加した学生に恵まれたこともあって,狙いはかなり達成できたように感じています。

 この記事では今回と次回の2回に分けて,2008年夏のインターンシップ開催にあたって考えたことや,そのときの様子,気付いたことをまとめていきます。

成功体験を持ち帰る

 40人ほどの社員しかいない,小さな会社のはてながインターンシップを開催することを決めたのは,2008年の春のことでした。社長の近藤,取締役の輿水などと,その内容や規模などを煮詰めていきます。

 世間の一般的なインターンシップでは期間は1週間から2週間程度,現場で先輩社員から指示を受けながら,経験の浅い学生でもできる仕事を試しにやってみるという企画が多いようです。実際の仕事ではなく,シミュレーションで実施する企業もあります。

 我々は,“はてならしい”インターンシップを考えました。結果として目指したのは「学生が成功体験を持ち帰ること」です。はてなのエンジニアとしての成功体験は,実際にコードを書き,リリースすること。若いうちに,大きなシステムを相手にコードを書いて,リリース,それがユーザーに利用される---このような体験ができれば,参加した学生のその後のエンジニア人生において,大きな意味を持つことになるでしょう。

 とはいえ,現在も動いているはてなのシステムに,不用意なコードを気軽に投入することはできません。データの規模はギガバイトやテラバイト。大量のトラフィックに耐えられる堅牢なコードを書く必要があります。

 そのため,十分な教育期間を設けることにしました。はてなでは,新卒中途に関係なく,入社すると約2週間(10営業日)の教育期間があります。すべての社員は,その2週間で,その後必要とされる技術を学びます。そのあとはすぐに現場に配属です。この経験から,学生さんが相手であっても,同様に2週間の教育機関を設ければ,はてなのコードを書くだけの知識を与えられるだろうと考えました。

 もちろん,ただ講義を聴くだけで学べないのでは困ります。毎日課題を設け,それをパスできないと後半に2週間設けた開発過程に進めない仕組みにしました。

 ずいぶん厳しく,ハードなカリキュラムに思えます。でも,成功すればきっと満足してもらえるでしょう。