グリッドコンピューティングを使って、小児がんの問題を解決しようというプロジェクトが、2009年初めから始まっている。千葉県がんセンターと千葉大学が共同で進めている「ファイト!小児がんプロジェクト(HFCC:Help Fight Childhood Cancers)」である(図1)。

図1●「ファイト!小児がんプロジェクト」のホームページ
図1●「ファイト!小児がんプロジェクト」のホームページ

 2009年3月にスタートしたHFCCは、300万種類ある分子化合物の中から、小児がんの治療に役立つものを選び出そうというプロジェクトだ。今日、小児がんはその7~8割が治療できる。しかし中には治療が難しいケースがある。

 その一つが神経のがんである神経芽腫。これまでの研究で、神経芽腫を治療しにくい要因となっている分子が、いくつか分かっている。その分子の機能を阻害する化合物を見つけられれば、小児がんの治療に役立つ可能性がある。

300万の候補から約20個を選び出す

 治療薬の基となる化合物は約300万種類ある。その中から要因分子の活動を阻害できる確率が高い化合物を見つけ出さなくてはならない。そのための計算処理は「スクリーニング」と呼ばれる。HFCCではスクリーニングによって約20個の化合物を選び出すことにした。選び出した化合物を基に、さらに研究を重ね、マウス実験や臨床実験を実施する計画だ。

写真●「ファイト!小児がんプロジェクト」を率いる千葉県がんセンター研究所の中川原 章所長
写真●「ファイト!小児がんプロジェクト」を率いる千葉県がんセンター研究所の中川原 章所長

 問題はスクリーニングにかかる時間である。1種類の化合物検証には、研究室にあるようなサーバーで6~7時間かかる。300万種類の化合物では約5400万時間が必要になる計算だ。千葉県がんセンター研究所の中川原 章所長は、「スクリーニングを短時間に終わらせようとすれば、スーパーコンピュータのような大型計算機が必要だ。しかし千葉大学にはそのような設備はなかった」と話す(写真)。

 神経芽腫になる子供は、日本では年間約4000人で、割合としては決して高くないため、そのための研究には「製薬会社もなかなか支援してくれない」(中川原所長)。そこで目を付けたのが、グリッドコンピューティングというわけだ。