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長年パッケージ開発にかかわってきましたが,売れ行きが悪いので開発を中止することになり,経験のない営業部門への異動を命じられました。会社に貢献できなかった悔しさと,自分自身を否定されたような虚しさで落ち込み,会社を辞めるかどうか迷っています。(男性,40才,管理職) |
長年携わっていた仕事で,思うような結果を出せなかった。しかもその仕事がなくなるという事態は,大きな衝撃になったことと思います。
私たちは,仕事のノルマや課題を達成していくことで,「自己効力感」(Self-Efficacy:自分がどんな行動ができるのかという可能性や自信)を高め,自分のキャリアに自信を持っていくものです。質問者は課題を達成できなかったことで自己効力感を喪失し,すっかり自信を失って落ち込んでいるのでしょう。結果が出なかっただけではなく,全く経験のない職種への異動を命じられたために「会社を辞めるべきかどうか」という心理的葛藤あるいは心理的ストレスも感じているようです。
こういう時は,今までの「キャリアの棚卸し」をすることをお勧めします。「キャリアの棚卸し」とは,自分の成育史や学歴,職業,スキル,人的ネットワークなどを振り返り,総合的に自己評価して,これまでのキャリアを整理することです。これまでに一生懸命取り組んできた仕事,その中で成功したこと,評価されたこと,身に付いた能力,出会った人脈などの項目を「キャリアシート」として書き出し,自己分析してみるのです。
最近は,キャリアカウンセラーを置く会社も増えています。その場合は,書き出した項目を自分で分析するだけではなく,キャリアカウンセラーに評価してもらってください。一緒に振り返ることで,より冷静に過去のキャリアが分析できます。
キャリアシートを作成して,自分のキャリアを冷静に振り返ると,「こんなはずじゃなかった」,「何で自分だけがこんな目に」,「どうせ自分は無能な人間だ」といった怒りの感情や情けなさ,不安な気持ちが薄らいでいくものです。そして「やるべきことはやった」,「周囲の評価は低かったが,努力した自分は認めよう」といった自己肯定感が生まれてきます。
何よりも重要なのは,これまでのキャリアに関して,自分自身で納得したり諦められたりできることです。これを心理学では「自己受容」と言います。それがきっかけになって,新しい職場で再スタートを切る決心や,会社をやめる決断ができるのです。
仮に会社を辞めることになって再就職に臨むときも,前述したキャリアシートが活かせます。あなたのキャリアのどの領域が,どのような理由で価値や市場性があるのか分析するのです。
その際は,自分のキャリアの方向性を明確にすることが必要です。言い換えれば「好きなこと」,「やりたいこと」,「できること」をはっきりさせます。私たちの能力は,この3つが整った時に,最も発揮されるからです。
自分のキャリアの方向性を明確にするには,心理学者のJ.L.ホランドが開発した,市販の「VPI(Vocational Preference Inventory:職業興味検査)」をやってみるのもいいでしょう。これは160の職業から自分が関心のあるものを選択することで,自分の興味・関心の強さや心理的傾向を測定するものです。もちろん,キャリアシートを基にキャリアカウンセラーのカウンセリングを受けることも有効です。
東京メンタルヘルスアカデミー所長