認識のズレを防ぐコツの最後は「なぜ必要なのかを聞く」こと。ユーザーがヒアリングの場で「システムにこういう機能を盛り込みたい」「システムでこういう情報を見たい」と言ったときに有効だ。「本当に盛り込むべき仕様は何なのかが,『なぜ』という質問に対する答えの中から見えてくる」と,システム・コンサルティングを手がけるオーサスの後藤昭彦さん(代表取締役社長)は指摘する。

 後藤さんがある企業の会計システムの開発に関するヒアリングで,「商品の実在庫とシステム上のデータの差異を毎日1回,把握できるようにしたい」という要望をユーザーから受けた。このとき後藤さんは「何のために差異が必要なのですか」という詰めの質問をした(図1)。会計処理に使うのであれば「倉庫にある商品の数量と単価を掛け合わせた合計金額を,毎日計算する」といった仕様を盛り込む必要がある。後藤さんは,その必要があるかどうかを見極めたかったのだ。

図1●なぜ必要かを聞くことで認識のズレをなくせた例<b>システム・コンサルティングを手がけるオーサスの後藤昭彦さんは,ヒアリングの場で実在庫とデータの差異を知りたいという要望が出てきたとき,利用目的を質問することで仕様を詰めることができた
図1●なぜ必要かを聞くことで認識のズレをなくせた例
システム・コンサルティングを手がけるオーサスの後藤昭彦さんは,ヒアリングの場で実在庫とデータの差異を知りたいという要望が出てきたとき,利用目的を質問することで仕様を詰めることができた
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 ユーザーの答えは「倉庫内にある商品が,所定の場所以外に置き去りにされていないかを確かめるためです」という意外なものだった。倉庫内の商品の数量をチェックするだけならば,わざわざ金額まで計算する必要はなく,システムで管理している商品数量の一覧を出力すればよい。

 ユーザーに詰めの質問をせずに,会計処理に利用すると思い込んでシステムを開発したとすると「的外れな機能を開発するのに,5人月はコストをかけることになっていただろう」と後藤さんは振り返る。結局,ユーザーの意図を正確に把握したことで1人日の作業で済んだという。