池末 成明/監査法人トーマツ TMTグループ シニアマネジャー

モバイル・コンテンツ/アプリケーション配信の主役が携帯電話事業者からサード・パーティのアプリケーション・ストアにシフトしつつある。アプリケーション・ストアはバリュー・チェーンをつなぐ巨大な動く商店街であり,市場全体への波及効果が高いプラットフォームだ。

(日経コミュニケーション編集部)

 世界の携帯電話事業者は,コンテンツやアプリケーション(アプリ)の市場で,アプリ・ベンダーには公式サイトを通じたアプリ配信を求め,加入者には公式サイトからのアプリ利用の利便性を図ってきた。だが,こうした囲い込み戦略にもかかわらず,2009年には世界でダウンロードされる百億超のアプリの半数以上が,携帯電話事業者以外のサード・パーティのアプリ・ストアからになるだろう。

3種類に分かれるアプリ配信モデル

 アプリ・ストアは大きく(1)端末ベンダー主導型,(2)ソフトウエア・ベンダー主導型,(3)通信事業者主導型──に分かれる(表1)。

表1●推進母体によって分かれる携帯電話向けアプリケーション市場
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表1●推進母体によって分かれる携帯電話向けアプリケーション市場

 (1)の端末ベンダー主導型の代表が,米アップルの「AppStore(アップストア)」とフィンランド ノキアの「Ovi Store(オビストア)」である。AppStoreは,2008年7月11日にサービスが開始され,3月時点の発表ではアプリの種類は約2万5000,ダウンロード総数は約8億件だという。アップルは,アプリ・ベンダーに対して,販売価格の30%を手数料として課している。また,iPhoneを販売する携帯電話事業者に対して,通話料に連動した販売奨励金を請求する。これは独自端末とアプリ・ストアによって,事業者とアプリ・ベンダー,そして顧客を囲い込むビジネスモデルである。

 ノキアのOvi Storeは5月に始まる予定。ノキアもアプリ・ベンダーに30%課金する。対象はノキアの「S60」と「Series40」を搭載した端末である。

 (2)のソフトウエア・ベンダー主導型の代表が米グーグルの「Android Market」と米マイクロソフトの「Windows Marketplace for Mobile」である。アップルやノキアとは異なり,両社とも自前の端末を持たず,端末上で稼働するOS/プラットフォームの「Android」(グーグル),「Windows Mobile」(マイクロソフト)を提供している。

 (3)の通信事業者主導型は,一般に特定のアプリ・ストアを用意しているわけではない(pp.84-85でフランスの事例を紹介)。サード・パーティのアプリ・ストアで販売されるアプリの収益は,アプリ・ストアの提供者と開発者で分配され,携帯電話事業者の取り分は原則ない。さらにモバイル・データ通信の定額料金を払っているユーザーが,アプリ・ストアを利用したところで,携帯電話事業者に追加で通信料が支払われるわけではない。そのため,携帯電話事業者は追加的な収入が得られない。携帯電話事業者は,アプリ・ストアの覇権をサード・パーティに完全に譲るつもりはなく,携帯電話事業者主導のオープンな環境で,アプリのポータビリティを高める活動を進めている。この活動母体がLiMo Foundationであり,世界の主要な携帯電話事業者が会員になっている。