私自身、IT(情報技術)産業はサービス業であるべきだと考えています。そもそも、すべての産業はサービス業であるともいえるし、さらに時代とともにその傾向は顕著になっています。これは、社会が熟成していくとともに、購入そのものが「買い換え」であり、ないから困るではなく「あれば便利」、もしくは「ライフスタイルをより豊かに」が購買動機になっていき、商品そのものだけでなくサービスが、その商品の価値や購入動機になるからです。さらに、少子化の問題もこの傾向に拍車を掛けているのかもしれません。

 加えてインターネットの出現と浸透は、この傾向を決定的な物にしたといえます。ユーザーは、簡単に自宅で企業や商品とのファーストコンタクトをなし得ることができます。だから、企業は自社の店舗やサービスセンターなどにユーザーをお迎えするつもりで、ウェブサイトでの対応を行わなければなりません。

 1990年代のウェブサイトのように、情報を提供すれば、ユーザーに満足を与えられた時代から、ウェブサイトにおいても、サービスレベルを評価される時代がやってきました。

そもそもウェブサイトとは?

 ユーザーは何かモノを調べる時や、商品を購入しようと思った時――つまり、困った時にウェブサイトを使います。ウェブサイトは巨大な百科事典であり、問題解決ツールなのです。これは、90年代から変わらないインターネットの本質です。

 インターネットはユーザーの問題を解決し、ユーザーに「ありがとう」と言われる数少ないメディアでもあります。今の時代、テレビやビデオ、エアコン、冷蔵庫もない家庭のほうがめずらしくなってきました。買い替えというニーズがほとんどの時代に、モノを売るのは非常に難しいものです。ユーザーのニーズをとらえることが非常に難しく、それゆえ重要になってきました。

 モノが無い時のビジネスは、安くて良いモノを大量に作れば、それを買ってもらって満足してもらえました。しかし、今は違います。さらに、「買い替える」「付加価値の高いモノから買う」ということを求める人を探すのが、従来のマスの手法では難しくなってきています。

 リアルなプロモーションは何となく商品を印象付けるのには強いのですが、その先には行けません。しかし、インターネットでなら、セグメントされたユーザー層へのアプローチがしやすいという利点があります。

 企業のプロモーションを例にすると、キャンペーンなどを行えばその時の売り上げは上がります。しかし、止めると下がります。つまりその場しのぎにとどまり、ベースとなるファンが増えないのです。

 一方、ウェブサイトはユーザーが満足体験をし、「ありがとう」と言ってくれる、つまりファンになってくれるすばらしいメディアです。問題を抱えたユーザーがウェブサイトに訪れます。訪れる先は企業のトップページではありません。ほとんどの場合、商品か情報のページでしょう。もし、商品や情報のページにたどりついたユーザーがそれに興味を持てば、その企業のことを知りたくなります。

 商品の開発ストーリーやその会社の歴史など、いきなり読みたいユーザーはほとんど皆無といえます。例えば、道端で社史を渡されてもユーザーは困ってしまうでしょう。ところが商品や情報に興味があるユーザーにとっては、それらは有効な情報になります。そうなると、どんなに長く、どんなに説明が難しくても読んでもらえる可能性があります。これは、ほかのメディアでは絶対に起こり得ないことなのです。

 「満足体験」というおもてなしをすることによって、ユーザーはその企業の志や想いにも興味や共感を持ってくれるかもしれないのです。ウェブサイトは企業のブランド価値すらも高めることができるツールなのです。

 ユーザー満足度の向上と、それを積み上げていくことによる生涯ユーザー育成、これこそがウェブサイトのメディアとしての特性にほかなりません。

 インターネットの浸透によってネットユーザーの増加は、単に情報を提供すれば、満足してくれていたユーザーから、サービスレベルを求めるユーザーへと、ユーザー自身の変化をもたらしました。