マネジメント

経済危機下のITコスト削減策

ITpro

コスト最適化の具体策とは〜ビジネス・コスト編

片山 博之
ガートナー ジャパン リサーチ ディレクター

 本稿の締めくくりとして、前回に続き、ガートナー ジャパンの片山博之氏が「コスト最適化フレームワーク」に基づいて、コスト削減の具体策について解説する。今回は、ITコストに比べてコスト削減効果もリスクも大きいビジネス・コストの削減策を取り上げる。(吉田 琢也=ITpro)

 今回は、難易度は高いものの、ビジネス価値の向上が期待できるレベル3〜4のコスト削減策を解説します。ガートナーが策定した「コスト最適化フレームワーク」については、前回の図3を参照してください。最後に、コスト削減策のシミュレーション結果の一例を紹介します。

 まず、レベル3(業務とITの連携による業務コストの削減)のコスト削減策です。図6を見ると分かるように、リスクが高いものもあれば低いものもあります。

図6●コスト最適化のレベル3:業務とITの連携による業務コストの削減
業務全体のコストを削減するテクノロジの導入
(注)「高−低」は,ケースバイケースで「高」「中」「低」のいずれにもなり得ることを示す
   「正」は,顧客にとってプラスの効果があることを示す
出典:ガートナー
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 リスクが低いコスト削減策としては、「テレビ会議システム」や「Web会議システム」、「SaaS(Software as a Service)によるeラーニング」などがあります。最近ではSaaSとして提供される会議システムもかなり出てきました。これらにより出張費や移動時間を節約できます。

 特に大企業で国内外への出張機会が多い場合は、かなりのコスト削減効果が期待できます。当社でもSaaSによる会議システムを積極的に活用しており、社員の中には海外出張がほとんどなくなってしまった、という人もいるくらいです。

 SaaSのWeb会議システムの中には、使ったときに使った分だけ支払う従量制の課金制度を採用したものが出てきています。このようなサービスを使うと、それほど頻繁な出張がないような企業では、年間で費用を支払うサービスよりも、コスト削減効果が得やすくなります。

 「SaaSのCRM(顧客関係管理)」は、コスト削減効果の大きさが条件によって変わってきます。そのため図では「高−低」と示しています。詳細はシミュレーションの例を使って後から説明します。

 「ERP(統合基幹業務システム)の導入」も、コスト削減効果の大きさはケースバイケースです。ただしガートナーが実施した調査によると、特に中規模企業ではコスト削減効果が高い、という結果が出ました。

 ERP導入後に得られた効果として「業務コストの削減」や「システム運用管理コストの削減」を挙げた割合を比べると、従業員300〜500人の中規模企業の方が、1000人以上の大企業よりも、はるかに高かったのです。その理由としては、中規模企業ではERP導入時のアドオン(追加開発)やシステム連携が大企業ほど多くない、ということが考えられます。

 より規模の小さい中小企業は、さらにアドオンやシステム連携が少ないので、もっと安くできるのではないか、とも考えられますが、必ずしもそうは言えません。あまり規模が小さいと、専任の技術者が不在だったり、社員がシステムに慣れておらず、トレーニングを含めた新たなコストが発生する可能性があるからです。ガートナーの調査では、大企業や中小企業と比べて、300〜500人の中規模企業のコスト削減効果が圧倒的に高い、という結果が出ました。

「シェアード・サービス」により最も効率的なプロセスを導入

 続いて、レベル4(イノベーションとビジネス再編の実現)のコスト削減策を解説します(図7)。既存のビジネスプロセスを大きく改善する、あるいは、全く新しいビジネスを作る、という二つのアプローチがあります。

図7●コスト最適化のレベル4:イノベーションとビジネス再編の実現
プロセス改善、ビジネス再編、イノベーションを実現
(注)「正」は,顧客にとってプラスの効果があることを示す
   「正−負」は,ケースバイケースで「正」「無」「負(マイナスの効果がある)」のいずれにも
   なり得ることを示す
出典:ガートナー
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 図の一番上にある「中国企業へのオフショア・アプリケーション開発」は、システム開発のプロセスを改善して効率化するためのソリューションと考えてもらえば分かりやすいと思います。ただ、リスクがいろいろあって、中国企業をどれだけコントロールができるかがキーになります。

 業務や情報システムを複数の組織で共同利用する「シェアード・サービス」には、グループ企業間で利用するものと、同業の企業間で利用するものがあります。「間接部門向けアプリケーション(ERPパッケージ)のシェアード・サービス」は前者の例、「基幹業務の銀行間シェアード・サービス」は後者の例です。

 シェアード・サービスにより、最も効率的なベストプラクティスのプロセスを導入することで、大幅なコスト削減を実現できる可能性があります。

 ただしこの方法には、導入を開始してから効果が出るまでに時間がかかるというリスクや、組織上および技術上のリスクを伴います。そのため、実施するかどうかの判断は難しいのですが、検討しておく必要のある企業は少なくないと思います。

 「Webコミュニティを使った商品企画・開発・販売」は、ダイレクトマーケティングの世界ではそれほど珍しいものではありません。それ以外の業界ではまだ普及していませんが、有望なコスト削減策として検討する価値があります。

 例えばアパレル業界でコミュニティを形成し、その中でニーズを聞き出してアパレル商品を開発・販売し、そのコミュニティで売れたら、一般市場に出していく、といったやり方が考えられます。こうした一連のプロセスで全面的にITを活用します。

 前回紹介した、ITコストを削減するためのレベル1とレベル2のコスト削減策は、多くの企業にとって必須であり、今すぐに着手するべきものです。しかし、それだけでは十分ではありません。

 今回紹介したレベル3とレベル4のコスト削減策は、リスクは比較的高いものの、景気回復後を考慮した、中長期的に効果が期待できるコスト削減のソリューションです。今すぐに投資できないかもしれませんが、回復期に投資が遅れると競合に差を付けられる可能性があるので、少なくとも今から計画しておく必要があります。以前からの継続案件であれば、その投資は必ず継続させるべきだと考えます。

 [2009/07/02]

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