皆さんは,自分が構築するシステムがユーザーにとって使いやすくなるように,普段から何か工夫をしていますか?レスポンスなどの性能要件や,情報漏えい対策などのセキュリティ要件は,十分に考慮していると思います。これら性能要件やセキュリティ要件と比べると,使いやすさ,すなわちユーザビリティについて考慮することは少ないのが現実ではないでしょうか。

 ユーザビリティを向上する施策は,以前から研究・実践されてきました。しかし,それは,ユーザビリティに関する高度なスキルや知識を持ったプロフェッショナルによって実施されることが多く,特に情報システムの分野では実施されることは少なかったのです。ユーザビリティの向上施策は,高度なスキルと知識がなければできないものと思っている方が多いと思います。しかし,やり方が分かれば,実践できることは多いのです。

 筆者が所属する日立システムアンドサービスでは「ユーザビリティを向上する施策をプロセスとして整理し,方法を明確にすることができれば,ユーザビリティ向上施策を実施することができるのではないか」と考えました。その結果,多くの人に使いやすいシステムを構築する道筋が見えてきました。

 当初,我々はユーザビリティに関して素人でした。そこで,日立製作所 デザイン本部の協力を得て,一緒にユーザビリティ向上施策に取り組むことでノウハウを吸収し,習得した施策をプロセスとして整理したのです。

 日立製作所 デザイン本部は,50年以上にわたってデザインに取り組んでおり,人間中心設計とユーザビリティ向上施策のノウハウを熟知しています。そのユーザビリティ向上施策を具体的に実施するために,就業管理システム「リシテア」シリーズの開発を試行プロジェクトとしました。試行錯誤を繰り返しながら,1年半かけて,ユーザビリティ向上施策をプロセスとして体系化することができました。

 ユーザビリティ向上施策をプロセスとしてまとめたのが図1です。Webシステムを想定してユーザビリティ向上施策をプロセスとしてまとめたものです。(1)ユーザー理解,(2)コンセプト定義,(3)UI(ユーザー・インタフェース)デザイン,(4)ガイドライン,という4つの工程から成り立っています。

図1●ユーザービリティを考慮した設計プロセス
図1●ユーザービリティを考慮した設計プロセス

 各工程と個々のプロセスは次の通りです。

(1)「ユーザー理解」工程

 この工程では,対象となるシステムや製品のユーザーとなる人物を理解することに重点をおき,次の3つのプロセスを実施します。この工程は,ユーザビリティ・エンジニアが中心となって作業を進めます。ユーザビリティ・エンジニアとは,ユーザビリティの知見が豊富なスペシャリストです。ユーザビリティ向上施策の検討・実施・評価を担当します。筆者もユーザビリティ・エンジニアです。

●現状調査
 現状の業務に関する情報を収集し,業務の仕様を理解します。業務の理解は,システム開発の最初に取り組むことであり,皆さんも実施していると思います。理解した業務をフロー図として整理し,システム化した場合に操作上問題となりそうな点を調査します。

●利用状況調査
 現状の業務について,グループ・インタビューを実施してユーザーに利用実態や意見・要望を確認します。また,現状調査で抽出した操作上問題となりそうな点について,ユーザーに確認します。ユーザーのコメントを一覧にまとめ,整理します。

●要求事項抽出
 利用状況調査で得られたユーザーのコメントの内容を分析します。ユーザーのコメントを一つずつ付せん紙に書き出し,似ている内容のものをグルーピングします。グルーピングした結果からユーザーの潜在的/顕在的な要求事項を抽出します。抽出した要求事項に対して,ブレーンストーミングを行って具体的な実現案を検討します。