今回は「温」について学びましょう。「温」とは、温和、温厚、おだやかで情に厚い、温かい、温もりがある、という意味です。

 『論語』の要諦第二段の「温・良・恭・倹・譲」、いわゆる五徳の中にあります。学而第一で、孔子の弟子である子貢が、師である孔子の人柄を評して次のように述べています。

 「夫子(ふうし)は温・良・恭・倹・譲、以て之を得たり」(先生は、温和で情に厚く、善良で、慎み深く、倹素・自制があって、謙遜謙譲のお人柄だから、その徳に感じて、自然に先方(王侯権門など)から政(まつりごと)の相談を持ち掛けられる)と。

 この五徳は、孔子の立派な人格が内に満ちていて、人に応接する際などに、おのずから外部に、外貌や外見、人柄となって現れるものと考えられます。いわば孔子の人格の発露であり、品格、品性といえるでしょう。

 ちなみに子貢は、子路や顔淵と並ぶ孔門十哲の1人です。孔子が73歳で死期を悟った時に、最も会いたがった人物の1人ともいわれています。

 孔子の五徳を企業活動に置き換えたら、さらに孔子の心を敷衍(ふえん)し(ひきのばし)、21世紀の現代に重ね合わせてみたらどのように解釈できるでしょうか。また、どのように考えれば、経営、マネジメントに生かせるのでしょうか。

「温」は、CSRを果たすための行動の1つ

 「温」とはある意味、CSR(企業の社会的責任)を果たすための行動の1つであるといえます。五徳によって、人に品格や品性が生まれるように、企業には「企業の品格」が生まれてくると思います。昨年秋以降、非正規労働者のリストラが大変な社会的問題になっていますが、障がい者の雇用問題も極めて重要な国と企業の課題です。これらはどちらも「温」の課題といえるでしょう。

 ところで、障がい者の法定雇用率は、56人以上の企業では1.8%と定められています。そんななか、積極的に障がい者の能力を引き出し、戦力として活用している会社があります。筆者は、彼らの持つ能力を引き出し、自立できるようにすることが、またそのような支援をすることが「温」のある企業ではないかと思っています。

 そうした先進的な取り組みの企業について考えてみたいと思います。ヒートテックが大ヒットしたユニクロや990円ジーンズのジーユーで快進撃を続けるファーストリテイリングは、障がい者の雇用率が1位で、2008年度では8.06%という雇用率の高さです。ちなみに、民間企業の全国平均雇用率は1.59%。

 現在約760店舗のうち、約9割の店舗で障がい者が働いていると聞いています。身体、知的、精神の3障がいでは、知的障がい者が、約7割を占めているそうです。優れた「温」、CSRの姿勢といえるでしょう。

 オムロン・グループであるオムロン京都太陽の取り組みも、素晴らしい「温」の姿勢といえます。オムロンの創業者である故立石一真氏と障がい者スポーツの父とも称された故中村裕博士の障がい者への思いが、見事なかたちで表れていると思います。