NTT東西地域会社は2009年5月19日,総務大臣に対して「次世代ネットワーク(NGN)におけるIPv6インターネット接続機能の提供に係る接続約款変更の認可申請」を行った。これは2011年にも起きると推測されているIPv4アドレスの在庫の枯渇に備え,ISP(インターネット・サービス・プロバイダー)がNGN経由でIPv6インターネット接続を提供できるようにするためのものである。

 今回の接続約款の変更は,NGNとIPv6インターネット接続が同時に使えない「マルチプレフィックス問題」を回避する接続形態が決まったことから申請された。2008年4月から行われてきた日本インターネットプロバイダー協会(JAIPA)とNTT東西との話し合いでは,(1)NGN網をトンネルしてISP側にトンネル終端装置を設置する案1,(2)NGN網をトンネリングしてNGN側にトンネル終端装置を設置する案2,(3)NGN自体がインターネット接続機能を提供する案3--で検討を進めてきた。案1は個々のISPが自前で設備を整備する必要があり現実的には難しい,案3はNTT東西がインターネット接続サービスを提供することになり,ISPの存在意義がなくなることから,JAIPAは案2を本命として協議を重ねてきた。しかし2009年2月に,最大3社の接続事業者がNGNと直接接続し,各ISPはこの接続事業者のローミング・サービスを利用してIPv6による接続サービスを提供する案4が,一部のISPから提案された。

 NTT東西は,IPv4アドレスの在庫枯渇に間に合うようにIPv6インターネット接続サービスの提供を2011年4月に予定しており,開発期間を逆算すると,5月末の認可申請を遅らせられない事情があった。そこでNTT東西は案2と案4の両方を提供できる形で接続約款の変更申請を行い,どちらの接続方式を選ぶかは各ISPの判断に任せた。NTT東西は具体的に何社のISPが各方式に申し込んでいるかは明らかにしていないが,2009年5月19日時点で「いずれの方式に対しても1社以上の申し込みがある」(NTT東日本の今関修一・相互接続推進部 制度・料金部門長)という。

 NTT東西は今後,接続約款変更の認可を受けた後に接続機能の開発に着手する。案4の接続事業者3社については8月末まで募集を行い,応募数が4社以上となった場合は,それぞれの接続事業者を利用するISPのユーザー数の総数が多い順に上位3社を選ぶという。また,接続事業者には接続を希望するISPを不当に扱わないなどの責務規定を設ける方針である。

 今回,NTT東西が案2と案4を併存させて準備を進めることについて,JAIPAの立石聡明専務理事は「案4には問題点が多い」と不満を隠さない。具体的には(1)ISPのコスト負担額の内訳が不明確であるという点に加えて,(2)ISPから見てゲートウエイの向こう側の状況が全く分からず,ISPが認知できないままフィルタリングや帯域制御が行われる可能性がある,(3)ネットワークの出口が東京と大阪に集約され,地方にあるデータセンターの価値が損なわれる,(4)ISPの顧客情報をNTT東西と共有する必要がある仕組みとなるが,その情報をNTTグループの営業活動に流用される懸念がある--と指摘する。その上で「約款変更の申請が行われた後にチャンスがあるか分からないが,情報通信審議会などの場で意見を述べる機会があれば改めてJAIPAとしての考えを説明したい」と語った。