タニタの谷田千里 代表取締役社長
両手に持っているのは「コメ・スタ チャンネル」の会員が描いた山下真弓氏の似顔絵。タニタが5月末まで募集していた

 体組成計大手のタニタ(東京都板橋区)のCIO(最高情報責任者)は、谷田千里代表取締役社長が兼務する。社会に出る以前からIT(情報技術)ツールに明るく、学生時代の1990年代には、タニタが初めてウェブサイトを開設するに当たり、どのようなページ構成にしたらよいかなどを助言していた。

 大学卒業後は、船井総合研究所などを経て2001年にタニタに入社。同社の戦略室に配属されて業務改革担当になった。業務プロセスを改善する意欲は高かったものの、「相手の話を聞けなかった」と苦笑いしながら当時を振り返る。役職や立場に配慮することなく辛口の意見を出しては、社内に問題を巻き起こしていたという。

 その後は2005年に同社の米国法人に出向。米国で業務に携わるなかで、まず相手の話を聞き、「相手の意向と自分が取り組みたいことを擦り合わせ、納得を得てから進める姿勢を身につけた」(谷田社長)。2007年に本社のIT担当役員に昇格し、翌2008年に社長に就任した。

 相手の話を聞く姿勢を生かして、実現にこぎ着けたIT活用策の例としては、2008年9月に開設したプロモーション用のウェブページ「Come Sta Channel(コメ・スタ チャンネル)」が挙げられる。コメ・スタ チャンネルは、ニワンゴ(東京都中央区)が運営する動画共有サービス「ニコニコ動画」を活用し、タニタの商品の特徴を紹介したり、谷田社長のメッセージを配信したりしている。谷田社長も自ら動画撮影のメンバーとして参加しており、「絵コンテを描いて担当者に指示していることも多い」(谷田社長)

 コメ・スタ チャンネルを開設した狙いを、「最終顧客に当社の商品の特徴を伝える手段を増やしたかったから」と谷田社長は明かす。体組成計のパイオニアであるタニタだが、最近は競合の激しい追い上げに見舞われている。米国からの帰国時に立ち寄った量販店の売り場で、競合の商品が目立ち始めているのを見た谷田社長は、一般顧客には同社の商品の強みや特徴が十分に伝わっていないのではないかと危惧した。そこで、商品の特徴を的確に伝える手段として、インターネットで動画を配信することを思いついた。

 タニタがコメ・スタ チャンネルを開始した2008年当時、ニコニコ動画に対する世間の風当たりは強かった。著作権を無視して動画をサイトに登録する利用者が後を絶たず、その対策が十分でないと批判を受けていたからだ。こうした負のイメージや、公式コミュニティーを開設している企業が存在しないことから、タニタ社内でも慎重論が強かった。

 ところが、谷田社長の発想は違った。「他社がまだ開設していないからこそ、参加すればインパクトがある」。反対派の声に真剣に耳を傾けて理解を示しながらも、「近い将来、販促などにネットの動画を活用するのは当たり前になることは皆も想像がつくだろう。どうせなら早いうちにやってみないか。うまくいかなかったらすぐに止めよう」と説得した。こうしてニコニコ動画初の企業による公式コミュニティーを開設した。

 開設時には「1000人も会員が集まれば十分」と谷田社長は考えていたが、2009年5月時点の会員数は4300人と予想を大きく上回って推移している。コメ・スタ チャンネルに出演した営業部門の山下真弓氏の眼鏡姿が人気を博し、出演動画の視聴回数が5万回を超える“波及効果”も発生した。

 こうした現象に自信を深めた谷田社長は、同年4月下旬から5月末には、コメ・スタ チャンネルの会員から商品キャラクターなどのイラストを募集した。会員と双方向のコミュニケーションを取ることで、商品やタニタへの愛着を深めてもらおうと期待している。

Profile of CIO

◆ITベンダーに対して強く要望したいこと、IT業界への不満など
・当社の既存の業務プロセスに合わせたシステム提案は必要ありません。最もうまく行っている他社事例をそのまま提案してください。最適な業務プロセスがどのようなものか分かって、社内の業務プロセスを見直す機会になります。

◆普段読んでいる新聞、雑誌
・ネトラン

◆仕事に役立つお薦めのインターネットサイト
・仕事の発想が行き詰まった時などに、2ちゃんねるのトピックをまとめているサイトを閲覧することがあります。自分ではなかなか考えつかない発想が見つかり、新しいアイデアを考える際などの発想のヒントになります。

◆情報収集のために参加している勉強会やセミナー・学会など
・各種の製品展示会などには足繁く通っています。新製品の資料を片っ端から集め、自ら勉強しています。

◆ストレス解消法
・休日に妻と一緒に過ごすこと