2011年7月24日の地上アナログ放送終了後,利用可能となるVHF帯周波数を用いた携帯端末向けマルチメディア放送の技術的条件(技術方式)が一部を除いてほぼ固まった。また,携帯端末向けマルチメディア放送サービスを実現するうえで必要となる電波法・放送法の改正法も成立,早期実現に向けた準備が進んでいる。

 そこで,前編と後編の2回に分けて,携帯端末向けマルチメディア放送の技術的条件(技術方式)の概要と,今後の動きとして注目される総務省の取り組みについて解説する。

ISDB-Tsb高機能,ISDB-Tmm,MediaFLOの3方式の技術的条件

 携帯端末向けのマルチメディア放送は,本コラムで既載の通り,VHF帯ローバンド(90M~108MHz)の18MHz幅とVHF帯ハイバンド(207.5M~222MHz)の14.5MHz幅で実施される予定の「次世代ワンセグ」と位置付けられている放送である。VHF帯ローバンドは,「地方ブロック向けデジタルラジオ放送」と都市部で最大半径10kmの範囲の地域を放送対象地域とした「デジタル新型コミュニティ放送」,VHF帯ハイバンドは,「全国向けマルチメディア放送」で利用される予定である。

 2009年5月18日に行われた総務省情報通信審議会放送システム委員会において,複数サービスの共用条件を含む置局条件と,スクランブル方式を除いた技術的条件がほぼ固まり,6月から1カ月間のパブリックコメント募集を行った後,7月28日の情報通信審議会情報通信技術分科会にて答申される予定だ。

 策定されたこの技術方式は,参入を考えている各社から提案された放送方式を基に議論し,まとめられたものであり,次の3つの放送方式から成る。1つ目は,地方ブロック向けデジタルラジオ放送とデジタル新型コミュニティ放送で利用される放送方式で,日本の地上デジタル音声放送方式「ISDB-Tsb(ISDB-T forSoundBroadcasting)」を高機能化した「ISDB-Tsb高機能」方式。2つ目は,全国向けマルチメディア放送の放送で提案されている方式の1つで,日本の地上デジタル放送方式「ISDB-T」をベースに,1セグメントと13セグメントを任意の個数組み合せる「ISDB-Tmm(ISDB-T for Mobile Multimedia)」方式。3つ目が2つ目と同様,全国向けマルチメディア放送の放送方式として提案された,米クアルコムが米国でサービスを開始している「MediaFLO」方式である。

IP伝送方式,ダウンロード方式,メタデータなどの技術仕様はバラバラ

 マルチメディア放送として提案されている3種類の技術方式の特徴は,ワンセグでは実現されていない蓄積型放送(ダウンロード放送)やIP放送,メタデータがサポートされている。また,3方式とも映像符号化方式がH.264,映像の最大解像度が720×480ドット,映像の最大フレームが30フレーム,そして音声符号化方式がMPEG-2 AAC+SBRとMPEG Surround,5.1chサラウンドと共通だ。しかし,新規機能となる蓄積型放送(ダウンロード放送)の伝送方式やIP放送の伝送方式が異なっている(表1)。

表1●携帯向けマルチメディア放送の方式概要
表1●携帯向けマルチメディア放送の方式概要
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 データ放送で使用するデータ符号化方式としては,ISDB-TsbとISDB-Tmmは現在地デジで利用されているXMLベースのデータ放送向け記述言語であるBML(Broadcast Markup Language)を採用する。しかし,MediaFLOはXMLベースの符号化方式に準拠する方式やリッチメディア形式であるFlash,ECMAScriptなどを使用するとしている。

 EPG(電子番組表)や番組ナビゲーションに利用するメタデータについては,ISDB-TmmとISDB-TsbはARIB(電波産業会)標準規格「サーバー型放送における符号化,伝送及び蓄積制御方式」(ARIB STD-B38)で標準化されているメタデータを採用する。しかし,MediaFLOはMPEG-7,TV-Anytime Forum,SMTPEなどで国際的に規格化されている方式を用いるとしている。