「CATV事業者がNTT東西の光インフラを借りて放送サービスを提供する」という協業形態にはメリットもデメリットもある(図1)。ケーブルテレビ山形の吉村専務は,「協業を成立させるには,CATV事業者もNTTも互いに一歩ずつ譲り合うことが必要だった」と語る。

図1●NTTとCATV事業者が協業するメリットとデメリット<br>それぞれエリア拡大やサービス強化でメリットがある。一方,CATV事業の既存ビジネスに与える影響も大きいため,ケーブルテレビ山形との協業では,協業するエリアを限定することにした。
図1●NTTとCATV事業者が協業するメリットとデメリット
それぞれエリア拡大やサービス強化でメリットがある。一方,CATV事業の既存ビジネスに与える影響も大きいため,ケーブルテレビ山形との協業では,協業するエリアを限定することにした。
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エリア拡大は容易だが利幅は減少

 ケーブルテレビ山形のメリットは,インフラ投資の負担をかけずに放送提供エリアを拡大できること。「自社回線を中心部から外へと敷設していくと,獲得可能なユーザー数に比して電柱共架料が高く付いたり,落雷などの自然災害による障害対応のリスクも高まる。これを軽減できることは大きい」(吉村専務)。

 NTTは,2011年7月に迫った「地上デジタル放送への完全移行」をフレッツ光拡販の好材料と見ている。アンテナの切り換えが必要だったり,電波による受信が難しい世帯に対して,地上デジタル放送を受信する代替策として光回線を提案できるからだ。

 営業エリアが限られているCATV事業者に比べれば,NTT東西の方が設備構築の効率性は高い。「既に600万回線を敷設済みであり,規模のメリットが効いてくる」(NTT東日本の中沢俊哉・コンシューマ事業推進本部ブロードバンドサービス部サービス開発担当部長)からだ。

 一方ケーブルテレビ山形は,回線使用料を支払ってNTT東日本から映像配信用ネットワークを借りることになるため,放送サービス1契約当たりの利幅が低くなるというデメリットもある。さらにインターネット接続などの付加サービスはNTT東日本が提供するので,収益機会は減ることになる。

再送信エリアをCATVと組んで広げる

 これらのデメリットを乗り越えられたのは,既存のCATVのサービス・エリアと,協業で拡大するエリアとを切り分けることに合意できたため。9月をメドに開始する予定の協業によるトリプルプレイは,当面,今までCATV回線が届いていなかった「未開局地域」に限られる(図2)。

図2●NTT東日本とケーブルテレビ山形の協業サービスの概要<br>ケーブルテレビ山形がインフラを引いてない地域に限定して,NTT東日本のフレッツ光回線を使って放送サービスを送出する。ケーブルテレビ山形は自社設備を使わない放送事業者との位置付けになる。
図2●NTT東日本とケーブルテレビ山形の協業サービスの概要
ケーブルテレビ山形がインフラを引いてない地域に限定して,NTT東日本のフレッツ光回線を使って放送サービスを送出する。ケーブルテレビ山形は自社設備を使わない放送事業者との位置付けになる。
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 NTT東日本は,協業エリアの3万3000世帯を対象に,フレッツ 光ネクストとひかり電話を販売する。そこに,ケーブルテレビ山形が放送サービスを重畳し,地上デジタル放送とBSデジタル放送を含めた多チャンネル放送を提供する。

 NTT東日本からすれば,山形市中心部などの人口密度の高いエリアでも協業したいところだが,まずは「サービス・エリアを拡大したいというCATV事業者側の要望を優先した」(中沢担当部長)。

 既に,スカパーJSATグループであるオプティキャストとNTT東西が共同展開する「フレッツ・テレビ」やNTTぷららとアイキャストが協業する「ひかりTV」でも,地上デジタル放送の再送信は実現済み。だが両サービスによる再送信エリアは,全国をカバーするには至っていない。採算性を考慮すると一気に全国に展開することは難しいからだ。もちろん山形エリアでもフレッツ光回線で地上波放送を再送信できるサービスはまだない。

 今後,各地方ごとに複数の放送局とそれぞれ再送信同意を結んでいくことを考えると,その際のパートナとして,既に地域に根を張るCATV事業者と連携した方が手続きを進めやすいという期待もできる。

 こうした将来展望を踏まえると,「小規模なエリアでも協業の実績を作り,CATV事業者にも分かりやすい成果を見せることが重要」(NTT東日本)との判断が働いているようだ。