サービス提供の仕組みは,フレッツ・テレビと「基本的には同様の設備を構築して実現する」(NTT東日本の中沢担当部長)。これは1本の光回線に,波長多重方式でブロードバンド通信と放送信号(RF)を束ねて提供する方式である。

仕組みは「フレッツ・テレビ」と同様

 NTT東日本は今秋までに,今回の協業エリアにあるNTT局6カ所に,フレッツ 光ネクストを提供するためのNGN網と,フレッツ・テレビでも使っている映像伝送サービス用の通信設備を並行して構築する(図1)。

図1●ケーブルテレビ山形とNTT東日本の協業サービスの仕組み<br>NTT東日本が,CATVサービスを受けられない地域に,放送信号をそのまま送出できる映像配信用設備を設置する。ケーブルテレビ山形はその設備を利用して,既存地域と同等の放送サービスをユーザーに提供する。
図1●ケーブルテレビ山形とNTT東日本の協業サービスの仕組み
NTT東日本が,CATVサービスを受けられない地域に,放送信号をそのまま送出できる映像配信用設備を設置する。ケーブルテレビ山形はその設備を利用して,既存地域と同等の放送サービスをユーザーに提供する。
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 既存のケーブルテレビ・サービスで送出しているのと同じ周波数帯域を使って放送信号を送れるため,「協業エリアでも既存サービスと同じセットトップ・ボックスで放送を受信できるようにする予定だ」(ケーブルテレビ山形)。

 協業を開始するに当たって手間がかかるのは,「設備の準備より,法制面での手続きだ」(ケーブルテレビ山形)という。ケーブルテレビ山形は,協業を機に自社回線で放送事業を行う「有線テレビジョン放送事業者」から,通信回線を借りて放送を提供する「有線役務利用放送事業者」に登録を切り替える。自社回線を使う放送エリアは残るが,一部でも他社の通信回線を使うエリアがあれば登録の切り替えが必須となる。これに伴い,地上テレビ放送事業者などとの再送信同意も結び直すことになるという。

設備コストの低減化が競争力強化の課題

 今回の協業についてケーブルテレビ山形は「メリットが明確になれば,山形市も含めた中心部まで協業エリアを拡大することはやぶさかではない」(吉村専務)と,前向きに取り組む姿勢だ。

 NTT東日本にしてみれば,協業が世帯数3万弱の地域に限られたままでは,フレッツ光を拡販するメリットは少ない。両者にとって,まずは限られたエリアで,どれだけトリプルプレイ・サービスの新規ユーザーを獲得できるかが,協業を拡大できるかどうかの条件になってくる。

 その判断材料となるのは協業サービスの料金水準だ(図2)。予想されるセット料金水準(図2のA,B)を見るとケーブルテレビ山形単独でトリプルプレイを提供するよりも,多少料金メリットが出せそうなことが分かる。

図2●NTT東日本とケーブルテレビ山形の協業で実現するトリプルプレイサービスの料金水準<br>デジタル多チャンネルパックを提供すると想定し,その他のトリプルプレイの選択肢と料金を比較した。サービスの内容や提供形態はNTT東日本とケーブルテレビ山形の間で協議中である。
図2●NTT東日本とケーブルテレビ山形の協業で実現するトリプルプレイサービスの料金水準
デジタル多チャンネルパックを提供すると想定し,その他のトリプルプレイの選択肢と料金を比較した。サービスの内容や提供形態はNTT東日本とケーブルテレビ山形の間で協議中である。
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 ただし,NTTグループとして提供できるIPTVサービスなどを加えたトリプルプレイ・サービス(図2のC)と比べると割高になる。地上波の再送信の有無など内容に差はあるが,月額1万円以上の料金でどれだけのユーザーを獲得できるかは未知数である。

 料金が高止まりするのは,「(放送サービスだけで)5000円前後の料金を取らなくては採算ベースに乗らない」(ケーブルテレビ山形)からだ。NTT東日本から借りる映像配信網の料金は相対で月額数百万円規模と見られる。地上波の再送信だけといった割安メニューでは採算割れの恐れがある。料金を引き下げるにはNTT東日本が,映像配信用ネットワークのコスト・ダウンを進めるなどの方策が必要だ。

上位レイヤーに事業拡大で収益減をカバー

 もう一つ,インターネット接続やプライマリ電話といった付加サービス分の収益機会の喪失を,CATV事業者は何で補うかという課題もある。これに対するケーブルテレビ山形の対策は,上位レイヤー・サービスに事業領域を拡張することだ(図3)。

図3●通信関連の収益減を補い上位サービスへ進出<br>インフラ拡大をNTT東日本に依存する一方で,上位レイヤー・サービスの開発に力を入れ始めている。
図3●通信関連の収益減を補い上位サービスへ進出
インフラ拡大をNTT東日本に依存する一方で,上位レイヤー・サービスの開発に力を入れ始めている。
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 ケーブルテレビ山形は,地元のデータ・センター事業者やシステム・インテグレータなどに出資している。今後は,グループ企業の総合力を生かして,「地域の生活支援や公共サービス支援といった分野で事業領域を開拓していきたい」と展望する。

 ケーブルテレビ山形と同様に,MSOに組み込まれず,単独で事業を展開し,経営の多角化にも積極的な地方のCATV事業者などにも協業の条件は当てはまりそうだ。