実際に趣旨をどのように洗い出し,「目的・背景・狙い」のそれぞれをどうまとめていくのか,ある具体的なケースを参考に見ていこう。ガソリンスタンドを経営する会社の顧客情報システムの調達を想定している。趣旨の元ネタとなるのは(1)経営理念,(2)情報化企画のたたき台資料,(3)社長インタビュー──の三つである。実際のものは分量が多いので,ここでは抜粋を挙げる。
(1)経営理念
・当社は「町の車の診療所」を念頭に,カー・ライフサイクルを通して心地よい環境をお客様に提供し,お客様の問題点を最後まで解決できるよう心がけます。 |
(2)情報化企画のたたき台資料(抜粋) ガソリンスタンド業界を取り巻く環境は厳しい。典型的な薄利多売のビジネスとして,長年激しい価格競争を続けてきた。ガソリンスタンドが生き残る手段は下記の四つであると言われている。
・薄利多売:セルフ式スタンドによる徹底した薄利多売を行う。 このような厳しい事業環境の中で,社長はフルサービスによる顧客の囲い込み戦略を選択した。顧客満足度を経営指標とするホテル「ザ・リッツ・カールトン」の理念に共感するものがあったからだ。 社長の口癖は「ラーメン屋でも何度か行けば顔を覚えてもらい,名前で呼んでくれる。ところがガソリンスタンドは何年通っても,『白のカローラのお客様』だ」。つまり,ガソリンスタンドでは,人ではなく「車」を中心にビジネスが回っている。それでは顧客満足は得られない。「人」中心のサービスを展開できないか,という社長の発想が,今回のシステム検討の端緒となっている。 |
(3)社長インタビュー(抜粋) 【聞き手】経営理念に関してご説明いただきたい 【社長】「人」中心のサービスを起点としたガソリンスタンド経営を目指したい。経営理念を策定し,全社員の意識を一つにしたいと考えた。また,マナー研修など社員教育にも力を入れてお客様の満足度の向上を図っている。大変に厳しい状況であるが,ガソリンスタントはサービス業であることを原点とした経営に取り組んでいくつもりだ。 【聞き手】顧客満足向上の観点から,特に改善したいポイントは何か。 【社長】カーライフサイクル(図4)において,カーオーナーがガソリンスタンドに支払う金額は,年間で約20万円。特に重要なのは車検である。車検は収益性が高い。「囲い込み戦略」を選択したということは,イコール車検ユーザを囲い込むということだ。 図4●社長インタビュー補足資料(車のライフサイクル)
車検ユーザーの新規獲得のために,日常のカーケアと結びつけたトータルなサービスの向上を図りたい。ガソリンスタンドの強みは給油による来店頻度の多さである。月平均2.5回の来店数が見込める。来店時に適切なケアができるお客様向けスケジュール管理・実績管理を行いたい。 また,お客様の情報を社員で共有して,実績情報から最新の気付き情報まで蓄積・活用できるシステムを作りたい。お客様に感動を与えられる会社になるよう,全員で取り組んでいくことが当社のミッションだ。 【聞き手】社長のIT戦略に関する考えをお聞きしたい。 【社長】経営者の考えやお客様の情報を社員が共有するためには,ITは欠かすことはできない。特にお客様の情報を社員全員が共有することが大事だと考えている。ITによる情報管理をお客様サービスに生かし信頼を得ることで,単にガソリンを入れるための場所ではなく「町の車の診療所」となることを目指している。 【聞き手】現在の貴社のITの状況はどうか。 【社長】現在の情報システムでは,給油,車検,洗車,カー用品,灯油配送,中古車紹介──の各業務が別々の管理システムとして動いており,お客様情報はバラバラだ。またインフラも陳腐化し,システム・トラブルも頻繁に起きている。そのため運用負荷も大きい。現在は車両ナンバーを中心に管理しており,あくまで「車」中心のシステムとなっているのでこれを「人」中心にしたい。 |
これら三つの情報から,「目的・背景・狙い」をどのようにまとめていけばよいだろうか。まずはこれらの資料をしっかり読み込んで,キーワードとなる言葉を抜き出してみるのである。