RFPの趣旨とは「目的・背景・狙い」であると述べた。それぞれどのようなものか解説していこう(図2)。
(1)目的
なぜ,システム投資を行うことになったのか,それによりどのような目的を達成しようとしているのかを,簡潔な一文で表現したものが望ましい。具体的なことは後述する背景や狙いに書くので,核心を捉えるのだ。
いくつか例を挙げてみよう。既存のシステムを再構築する場合などは,現行システムが抱えている課題があるだろう。個別の機能上の問題点ではなく,事業や業務そのものに出ている全体的な影響を捉えることが重要である。
[課題]システムが陳腐化し,事務負担が過大化している。
[目的]現行システム陳腐化による過大な事務負担の軽減を目的として,新システムを構築する。
[課題]現行システムは継ぎはぎ的に構築され顧客情報が分散しており,有効活用できていない。
[目的]顧客情報を一元化し,有効活用することで最善の顧客サービスを提供できるよう,システムを再構築する。
[課題]新商品に対応できず,他社に競争力で劣ってしまった。
[目的]○○市場での競争力の強化を目的に,営業支援システムを再構築する。
あるいは新規事業の開始に伴う新たなシステム構築の場合であれば,以下のような例があるだろう。
[課題]新規事業に参入するが,必要な情報インフラの構築が必要である。
[目的]○○事業参入にあたり,その情報基盤となるデータベース構築を目的として,△△システムを構築する。
[課題]他社との差別化のため,インターネット事業に踏み出す。
[目的]厳しい事業環境において,インターネット事業により他社との差別化を図るため,○○システムを新規に構築する。
(2)背景
背景は,前述の目的で書いた事柄が,なぜ起きているのかその原因を分析したものを記述する。目的よりはやや具体的に記述するが,個別の具体的な要求ではないので,できるだけ三つか四つ程度に原因を集約して書くとよい。例を挙げてみよう。
[目的]現行システム陳腐化による過大な事務負担の軽減を目的として,新システムを構築する。
[背景]
・現行システムは構築から8年が経過し,新たな業務への対応が困難であり,それを手作業で補っているため,事務のミスが増加している。
・新業務に関する事務の比率が増加しており,今後さらに事務負担の増大が予想される。
・現行システムのインフラの多くは,既にサポート期間が終了しており,維持管理上の深刻な課題となっている。
(3)狙い
システム構築によって,先の背景で挙げた問題点や原因を解決することで,どのような効果を期待しているのかを記述する。この狙いはまさに投資対効果の「効果」の部分であり,これを具体的に記述しておくことが,ベンダーへの情報伝達という観点から重要なポイントとなる。つまりこの狙いで書いた定量効果や定性効果を実現するためのシステムが構築されることを要求するのだ。例を挙げよう。
[背景]
現行システムは構築から8年が経過し,新たな業務への対応が困難である。それを手作業で補っているため,事務ミスが増大している。
[狙い]
・システム化が未着手の○○業務への対応による効率化
・上記の○○業務システムと基幹システムとのデータ連携
・手作業によるデータ・チェック作業の自動化による人為ミスの減少
(4)その他の事項
趣旨は,「目的・背景・狙い」がきちんと記述されていれば,それで不足はない。ただし,システムの規模やその性質により,付け加えてもよい要素というものはいくつかある。
筆者がRFPのコンサルティングを実施する場合,それらの要素を「システム構築の大前提」というくくりで記述することがよくある。その名の通り,システム構築全体に関わる前提条件となるような大きな要素を趣旨に記述しておくと,それがベンダーの注意を引き,提案時に十分に留意されるようになる。大前提となるものとしては以下のようなものがある。
・自社開発ではなく,パッケージ製品を利用する(もちろん,その逆の場合もある)
・システム運用は外部委託とする
・著作権はユーザー側がすべて持つこととする
また,Webシステムの場合,特に一般コンシューマ向けのシステムの場合などは,次のような大前提を入れるのもよいだろう。
・Webによるサービスのメイン・ターゲットは20代~30代の女性会員とする
・PC用と携帯用の二つのサイトをそれぞれ構築する