前述したガソリンスタンド経営会社の事例を基に,趣旨の書き方の実践的なやり方でを考えてみよう。実際に,趣旨をまとめたものを図5に示す。

図5●RFPの趣旨(目的・背景・狙い)の書き方例
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 まずは,(1)経営理念,(2)情報化企画のたたき台資料,(3)社長インタビュー──の三つの資料を読み込んで,そこからキーワードとなる言葉を抜き出してみる。キーワードとなるのは,以下のような特徴を持つ言葉である。

・複数の資料で使われている言葉
・何度も繰り返し出てくる言葉
・一般的な表現ではなく,独特の言い回しをしている言葉

 前述のケースの資料を読み込んでいくと,例えば次のようなキーワードを抜き出すことができる。

・「人」を中心とするサービス
・町の車の診療所
・お客様情報
・顧客満足度(またはお客様に感動を与える)
・車検
・囲い込み(または囲い込み戦略)
・油外
・カーケア・ナビゲーション
・トータルなサービス
・カーライフ

 上記のキーワードの中で,特に何度も出てくるのが「『人』を中心とするサービス」と「顧客満足度」の二つである。ここに社長のこだわり,つまり会社が目指したい方向性を強く感じることができる。この方向に会社が向かうためにシステム投資を行うのである。つまり,投資目的である。そこでこの二つの言葉を入れて,目的としてふさわしい文言を練るのだ。その一例を挙げよう。

【目的】「人」を中心とするお客様満足度の高いトータルなカービジネスを展開するため,顧客情報システムを構築する。

 次に,その目的が生ずるに至った原因となる事象を「背景」としてまとめる。このとき,洗い出したキーワードに対し,ガソリンスタンド業界全体で起きている外部要因と,この会社の企業理念と実際の仕事との矛盾といった内部要因の両方を見ていくとよい。

 そして「狙い」は,目的,背景をもう一段ブレークダウンしてまとめる。目的を実現することで何を得ようとしているのか,あるいはどのような問題点の改善を目指しているのかを書く。

 このときに,図5の例にあるように,それらを3~4種類程度のカテゴリーに分類して,それぞれのカテゴリーで2~4個程度の狙いを作るようにすると書きやすい。さらにこの例では,狙いを象徴する言葉として,キーワードの中でも特にユニークであった「町の車の診療所」という言葉を,狙いの中心に盛り込んでみた。社長の強い思いのこもったこのキーワードを入れることで,狙いがすべて同じ方向に向かっていることを強調するためだ。

 最後に,趣旨の書き方を整理すると以下のようになる。

(1)集めた情報から,キーワードをいくつか抜き出す。
(2)特に重要と思われるキーワードを中心に目的を簡潔に書く。
(3)キーワードに対し,外部要因,内部要因の視点から問題点となっている背景を洗い出す。
(4)目的,背景をブレークダウンして,狙いを書き出す。それらを3~4種類程度のカテゴリーに分類して,それぞれ2~4個程度にまとめる。
(5)キーワードに狙いを強調するユニークな言葉があれば,それを使ってまとめる。

永井 昭弘(ながい あきひろ)
1963年東京都出身。イントリーグ代表取締役社長兼CEO,NPO法人全国異業種グループネットワークフォーラム(INF)副理事長。日本IBMの金融担当SEを経て,ベンチャー系ITコンサルのイントリーグに参画,96年社長に就任。多数のIT案件のコーディネーションおよびコンサルティング,RFP作成支援などを手掛ける。著書に「RFP&提案書完全マニュアル」(日経BP社)。