サービス・イノベーションというと、何か新しいものを創造することだけをイメージしがちである。しかし、こうした創造力と並んで重要なのは「展開力」だ。ここでいう展開力とは商品やサービスを市場に普及させる力であり、スピードや応用力、情報力、徹底度、そして現場主体の顧客志向といったサービス・イノベーションの重要な要素を指す。研究開発や商品開発の成果に顧客ニーズをフィットさせ、きめ細かなカスタマイズや迅速な市場対応を図ることも展開力の一部である。

 売り手市場の時代は、創造力から生まれた高品質な商品やサービスが先進国全般で受け入れられる単一のグローバル市場が形成された。そのため、統一された規模での展開が主流であった。ところが現在の買い手市場への変化は価値観の多様化に伴い、BRICs(ブラジル・ロシア・インド・中国)や資源国の台頭、そして経済の多極化の中で、高品質なメード・イン・ジャパンの商品がどこでも歓迎されるとは限らない状態になっている。

 消費者が購買の主導権を握る現在は、自分にとっての使いやすさや価値、生活様式、値ごろ感が購買を決める。超高機能では独走する日本の携帯電話メーカーが、世界シェアでは国内10社合計で世界3位である韓国サムスンと同レベルでしかない。多様な価値観への対応の不十分さの表れでもあり、国際標準への努力を含め、生活様式や値ごろ感に対応した展開力を見直す必要がある。

 電気製品でグローバル市場を席巻するサムスンは半導体分野で圧倒的なシェアを獲得している。家電でも軒並みトップレベルのシェアにある。サムスンのBRICs対応としては、東京大学ものづくり経営研究センターの吉川良三先生に聞いた冷蔵庫の話が面白い。「韓国の冷蔵庫はキムチを大量に収納できる設計になっている。一方、冷蔵庫の普及率が2割程度のインドでは、メイドが勝手に使用できないように鍵がかかる構造にして販売を伸ばした」

 先日、松下電器産業が新興国に特化した家電開発を本格的に開始すると報じられた。IT(情報技術)革新で商品の企画から生産、発売のリードタイムを半減させ、薄型テレビの世界同時開発・発売で世界シェアナンバーワンを達成する展開力を身につけた松下電器の取り組みに期待したい。