本研究所では、日本と海外のIT技術およびその利用方法を比較し、両者の間にある格差について考えていく。今回は、2009年5月18日に公開された検索サイト「Wolfram Alpha」を紹介しながら、科学的思考力をめぐる格差について考察したい。

 早速、Wolfram Alphaに触れてみよう。入力フォームに入力し、検索ボタンを押すと結果が出てくるのは、ヤフーやグーグルと同じである。ただ違うのは、出てくる結果となるデータの“質”だ。例えばWolfram Alphaに「caffeine vs. aspirin」と入力すると、元素結合の図や数値が出てくる(図1)。

図1●WolframAlphaで「caffeine vs. aspirin」と入力したときの検索結果
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 これは一体、なんの検索エンジンなのか?インターネット上にあるWebサイトの情報を検索できるのが、ヤフーやグーグルだ。しかし、Wolfram Alpha はユーザーが知りたいであろう情報を返すという、アプリケーションとしての役割を果たしている。次世代グーグルというものではなく、全く別のものだと感じられる。筆者が手がけるユーレットのように、インターネット上のデータをどう整理してユーザーに見せるかということでもない。あくまでもユーザー側に立って、ユーザーがほしいであろう情報をユーザーが見たいであろう形で表示している。

図2●WolframAlphaで「yahoo」と入力したときの検索結果
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 企業名を入力フォームにいれてみよう。「yahoo」と入力すると、売り上げや株価などの情報が表示される(図2)。これは、投資家がほしいと思われるデータの表示の仕方しているように私は感じる。ここが難しいところかもしれない。例えば、方程式の答えや、化学式のように、科学であれば答えは一つである。しかし、企業名を入れたユーザーが知りたいのは、ここに表示されていることなのか?人事のことや株主のこと、ニュースのことなどを知りたいと思っているのではないか?こういった点については満たされていない。

科学技術計算用ソフトの開発者らが発想した

 Wolfram Alphaは、科学技術計算用ソフトである「Mathematica(マセマティカ)」の開発を手がけた人たちが発想した検索サイトである。そのため、科学をベースに物事を思考している。

図3●Mathematicaの製品紹介ページ
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 Mathematicaといえば、私が学生時代に通信を研究していたときに、少しかじったことがある。「非常に良くできたソフト」という印象だ。まだ、オブジェクト指向という言葉が一般的ではないころ、パーツごとにプログラミングができ、パーツを使いまわせ、さらにグラフィカルに通信回路図を表現することができた。先輩に見せてもらった時には「便利なものがあるものだ」と感心したのを覚えている。久しぶりにWebサイトを覗いてみたが、当時とは比べ物にならないほどに進歩している(図3)。

 先程、Wolfram Alphaはグーグルとは別物だとコメントした。だが、グーグルが図書館データベースのようなものをインターネット上に開放したのに対し、Wolfram Alphaは、Mathematicaを研究者のツールとしてではなく、一般の人が分かるインタフェースでインターネット上に開放した、という意味で非常に発想のプロセスが似ている。