コストの可視化

 TCO(Total Cost of Ownership)、米ガートナーが提唱したいわゆるシステム保有総コストのことであり、コンピュータや情報システムの導入ばかりでなく、維持管理や利用に伴う費用などの総額のことだ。

 1990年代に一人ひとりが情報端末を持つネットワーク・コンピューティングが急速に普及し、パソコン端末にかかわる有形無形のコストが大きな割合を占めるようになった。コンピュータの導入時に多額の費用を要した時代とは異なり、経営や事業のインフラになったコンピュータシステムでは維持管理や付帯的にかかる費用がばかにならない。そのためにTCOであるとか、ROIT(Return on IT=ITの導入効果)といった概念が必要になってきたものと思われる。

 TCOには日常的に利用者がほかの利用者に使い方を教えたりする「見えないコスト」も含めるべきだといわれているが、そのコストを捕捉することは容易ではない。しかし現状の実態を見れば、利用者のリテラシーも一定の水準に達してきたし、情報システムのウェブ化などによって特別に利用マニュアルを用意しなくても使えるようになってきたのでそのコストまで費用をかけて捕捉することはないだろう。ただし、業務システムのリリース時の集合教育や常設あるいは一定期間設置するヘルプデスクなどのサポートコストは計上も容易であるし、当然コストとして含めなければならない。

 TCOをどのレベルで補足するかは企業によって異なっている。TCOはどのような仕訳であっても、コストの評価基準を明確にして網羅的に把握しなければならない。経営者の意思決定のためには管理会計を導入していることが望ましいが、財務会計だけであっても経営者にとって分かりやすく容易に評価できるものでなければならない。それにはコスト構造を可視化することである。

 あなたの会社はコスト構造が見えるようになっていますか? システム部門の人件費、無形固定資産に組み込むべき人件費、ハードウエア、ソフトウエア、ネットワーク、外注費、修繕費、消耗品費などなど、それらの内訳が明確ですか? 売り上げに対する投資比率が明確ですか? 毎月のコストが見えていますか? パソコン1台当たりいくらで購入しているか即座に答えられますか?

 私の経験を言えば、期末に総額は分かるがコスト構造が見えるようになるまでには3年ほどかかった。システム部門の予算管理範囲はTCOの3分の2ほどであった。情報子会社には契約単位で外注費として支出されるので、その先の人件費や、ハードおよびソフト、グループ外への外注費などの内訳は見えなくなってしまう。