アビームコンサルティング
IFRS Initiative 統括責任者
執行役員 プリンシパル 公認会計士
藤田 和弘

 これまで3回にわたり,国際会計基準(IFRS)の基本について説明してきました。第1回では必要とされる背景やグローバル・スタンダードとなっていく過程を,第2回では会計基準としての特徴を,第3回では導入により得られるメリットをそれぞれ見てきました。

 今回はいよいよ最終回です。IFRS対応に際しての課題を,IFRS対応の「5つの壁」と題して整理してみたいと思います。

図1●IFRS対応の「5つの壁」
図1●IFRS対応の「5つの壁」

第1の壁:理解の壁

 IFRS対応で最初に乗り越えなければならないのは「理解の壁」です。IFRSが求める会計上の要件や課題を正しく理解する必要があります。

 ちまたではIFRSについて,グローバル・スタンダードの「津波」「衝撃」といった表現で,危機意識を醸成する向きもあります。IFRS対応についても「会計は2割,後の8割はシステム」「固定資産台帳を5つ準備し,別々の償却計算に対応する必要がある」など,いろいろな説明が飛び交っています。

 そうした表現が大げさでなく,本当に当てはまる会社もあるでしょう。しかし一般的に言って,多少尾ひれがついているのではないかと思われます。

 こうしたことに振り回されないためには,IFRSが求める要件を正しく理解した上で,その要件を自社の状況に当てはめ,課題を正しく理解することが大切です。地に足を着けて,組織全体で危機意識を正しい方向にはぐくむことで,IFRSに対する正しい理解が広がります。

経営トップから現場の担当者まで知っておくべき

 IFRSには,これまでの日本の会計基準とは異なる概念や考え方,難解な項目が多数含まれています。このため,「IFRSは会計の問題だから経理部門が知っていればいい」と片付けられがちです。しかし,経理部門だけがIFRSを理解していればよいわけではありません。

 会計基準の変更が経理処理の変更だけの話では済まないのは,これまでの連載で説明した通りです。会計基準の変更は,競争のルールが変わることも意味します。

 ルール変更の後も競争に打ち勝つためには,経理担当者はもちろん,経営トップ,企画,営業,情報システム,人事など,グループ会社を含めた関係者が,新たなルールの要所を正しく理解しなければいけません。それが競争に参加する前提条件であることを,再確認しておく必要があります。

 以前は,書店に並ぶIFRS関連書籍のほとんどが,会計の専門家向けの内容でした。最近では分かりやすく工夫したものが増えているので,それらを参考にしてもよいでしょう(関連書籍)。社外のセミナーを利用したり,社内でワークショップを開き,関係各部門にとってのIFRSのインパクトを議論したりして,組織横断プロジェクトに備えるのも有効だと考えられます。