Microsoftは,Internet Explorer(IE)8.0 ベータ2に関するユーザーからのフィードバックを受けた上で,RC(Release Candidate:リリース候補)版の公開を経て,2009年3月末からIE 8.0の最終版をリリースしている。Microsoftは,2008年3月に開発者向けのIE 8.0 ベータ1をリリースし,IE 8.0 ベータ2ではエンド・ユーザー向けの機能を追加した。だが,このIE 8.0 ベータ2で互換性などの問題が生じたため,MicrosoftはIE 8.0の正式リリース前に,これらを解決しようとした。こうしたIE 8.0の変更点について,いくつか紹介しよう。

最大の問題は互換性に関する変更

 IE 8.0における最も大きな変更点の1つに,互換性モデルがある。Microsoftは,IEのコア・レンダリング・エンジンを,より標準に準拠したものに変えようとしているのだ。これが実現されれば,将来的にWebサイトの設計者や開発者はコードを記述する際に,さまざまなブラウザのクセを気にする必要がなくなり,Web標準への準拠だけに集中できるようになる。だが,短期的に見ると,この変化によって従来のIEとの互換性に重大な問題が起きてしまった。なぜなら,多くのWebサイトや企業のイントラネット・サイトは,IE 6.0およびIE 7.0向けに設計されているからだ。

 Microsoftは,この互換性問題に対処するため,IE 8.0のツールバーに特別な「Compatibility View(互換表示)」ボタンを設けた。エンド・ユーザーは,IE 8.0で正しく表示されないWebサイトがある場合,このボタンを押してレンダリング・エンジンを切り替えることができる。そして,企業は,IE 8.0の豊富な管理機能を使って,イントラネットやほかのサイト向けに下位互換性モードを設定することが可能だ。さらに,Microsoftは,開発者が新しいレンダリング・エンジンに習熟してくれることを期待して,1年間のIE 8.0ベータ期間を設けた。

 だが,2008年中にIE 8.0のレンダリング・エンジンで正しく表示されるようにサイトを改良した開発者は,ほとんどいなかった。そして,よかれと思って追加されたCompatibility Viewボタンは,サイト互換性問題の負担をエンド・ユーザーに押しつけることになった。明らかに,MicrosoftはIE 8.0を一般ユーザー向けに出荷する前に,もっと自動化されたソリューションを考え出す必要に迫られていたのだ。

 Compatibility View Updates(互換表示のアップデート)と呼ばれるこのソリューションは,IE 8.0のデフォルトのレンダリング・エンジンで正しく表示されないことが分かっているサイトのブラック・リストを作成し,常時更新して,同ブラウザに提供する。そして,IE 8.0はブラック・リストに載っているサイトに遭遇すると,自動的にCompatibility Mode(互換性モード)に切り替わるのだ。サイトが更新されてIE 8.0に対応すると,そのサイトはブラック・リストから自動的に削除される。

 このCompatibility View Updates機能はオプションで簡単に削除可能な上,管理された環境での設定も可能である。そのため,IE 8.0でこの新機能を使いたくない場合はすぐに無効にできる。もちろん,必要に応じて,Compatibility Modeに手動でサイトを追加することも可能だ。

プライバシやセキュリティに関しても変更されている

 互換性以外にも,ベータ2のリリース以降に,Microsoftはいくつかの変更をIE 8.0に加えている。アドレス・バーからAutoComplete Suggestion(オートコンプリート候補の提案)を削除し,アドレス・バーのドロップダウン・メニューに最近訪れたサイトや人気のあるサイトをより多く表示できるようにした。従来のIEのリンクバーの改良版として登場した新しいお気に入りバーも,より細かな設定が可能になっている。

 プライバシとセキュリティの機能にも変更が加えられている。特定のサイトからのダウンロードおよびアドオンをブロックするInPrivate Subscriptionは,取り除かれた。その一方,同じくプライバシ関連のInPrivate Blocking機能は,同機能が有効になっているときは,すべてのアドオンが無効になるように変更された。InPrivateもセッション固有に変更されたため,このモードが有効になっているときに開かれた新しいブラウザ・ウインドウはすべてInPrivateモードを使用することになる (以前だと,新しいウインドウは,プライバシー機能が働かないIEモードで開いていた)。

すべての新機能はグループ・ポリシーで制御可能

 Microsoftは,ベータ 2のリリース後に追加されたすべての新機能について,企業での使用を想定して,グループ・ポリシーを通して制御できるようにしている。これには,Compatibility ViewボタンやInPrivate Blockingのような機能も含まれている。

 開発者は,CSS 2.1および3.0のサポートが強化されていることや,Developer Toolbar(開発者ツールバー)にいくつかの新機能が追加されていることに気づくだろう。例を挙げると,設定を変更することで,さまざまなテキスト・エディタとツールバーを連携させられるようになった。

IE 8.0は導入すべきか?

 アクセラレータやWebスライス,Visual Search Suggestion(視覚的な検索提案)など,エンドユーザー向けの重要な新機能が追加されたことで,IE 8.0はFirefoxをはじめとする競合ブラウザに比べ十分に魅力的なものに仕上がっている。問題なのは,IE 8.0が新しいレンダリング・エンジンを搭載したことで,過去のIEの仕様に準拠してきた企業はやっかいな問題に直面する可能性があるということだ。そうした企業は,できるだけ早い時期に,新ブラウザで社内のイントラネットや公開Webサイトをテストした方がいい。IE 8.0で互換性機能に変更が加えられたため,当面は現状のままでも何とかなるだろう。だが,長い目で見た場合は,現在使用されているすべてのブラウザで正常に機能するWeb標準にサイトを準拠させるのが賢明だ。

 ここで考えなければならないのは,IE 8.0の機能面での改善に,互換性の問題やアップグレードに要する手間を正当化するだけの価値があるかどうか,ということだろう。IE 8.0は,Windows 7に標準搭載される予定である。従って,ほとんどの企業はWindows 7への移行という形で,IE 8.0に「アップグレード」するのではないか,と筆者は考えている。この方が,既存のWindows VistaやWindows XPのマシンをIE 8.0にアップグレードするよりも,良識的な方法であるように思える。